不良債権が膨れ上がったことで経営危機を招き、3兆円を超える公的資金の注入を受けて“実質国有化”されたりそなホールディングスは「公的資金の返済ができず、いずれ破綻するだろう」と銀行関係者の間でもささやかれていた。りそなグループの前身は大和銀行とあさひ銀行で、いずれも都市銀行の下位に甘んじており、それだけに体力以上の無理を重ね、財務内容を悪化させていた。
実質国有化と同時に、りそなホールディングス会長に就任した細谷英二氏は旧国鉄で改革を推進した一人だが、金融業界は未経験。周囲が反対する中、不退転の決意を固め火中の栗を拾う道を選んだ。素人の目、一般の利用者の目で、銀行のおかしな実態、内輪の論理にメスを入れ、銀行界の横並び意識、内向きの体質に切り込んでいく。
細谷氏は病魔に襲われ、道半ばで斃れた。だが、「細谷改革のDNA」はりそなグループに根付き、銀行業界、金融界初のサービスを次々と開発し、業務改革、新サービスの導入など、チャレンジを続けている。
IT企業、ネット企業の金融ビジネスへの参入が相次いでいるが、りそなグループは何を目指しているのか。細谷氏の下で財務改革の陣頭指揮を執り、細谷イズムを身近で体験してきた東和浩氏を直撃し、りそな改革の全容、金融ビジネスの展望について聞いた。
銀行がこれから闘う相手は
IT企業や小売業など異業種
編集部(以下青文字):今年(2017年)3月に発行した『ダイヤモンドクォータリー』の表紙に、国産乗用車の開発に執念を燃やした豊田喜一郎さんのイラストを掲載しており、今年11月に創業80周年を迎えるトヨタ自動車の黎明期をモデルにしたドラマも人気を博しています。
第二次大戦後、不況と労働争議に見舞われ、トヨタが経営危機に直面した時、一部の銀行は融資に冷たい態度を取りました。こうした経験から「自分の城は自分で守れ」「無借金経営」といったトヨタ独自の経営スタイルが誕生したが、企業を支援・育成する立場の銀行の中には、雨が降った時に傘を貸さない、傘を取り上げるといったことがありました。
バブルの崩壊、金融の自由化を経て、時代は大きく変わっていますが、銀行、金融機関を取り巻く昨今の経営環境について、どう見ていますか。
東(以下略):銀行は雨が降ると傘を貸さないとか、傘を取り上げるといわれた時代は、銀行が産業構造の中で主要な役割を担っていました。当時は期待も込めてこうした表現で揶揄されましたが、いまは超金融緩和の状態が続いています。
金融業界は変革の時代を迎え、銀行のビジネスモデルそのものが問われており、こういう表現をすると、社内も業界もひっくり返ってしまうかもしれませんが、銀行の位置付けが様変わりしてしまったというのが私の現状認識です。
社内がひっくり返ってしまうという銀行論を聞かせてください。
ビジネスモデルの変革期にいる現在、銀行が闘っているのは銀行だけではない。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOが「我々は、グーグルやフェイスブック、その他の企業と競合することになるだろう」と3年ほど前に発言していますが、私は以前から、ネット銀行を展開するIT企業や小売業など、異業種との闘いになると話してきました。
銀行業を経営するには、巨額の資金、大規模な情報システム、信頼性の高い与信システムやリスクマネジメントが不可欠であり、それゆえ参入障壁が極めて高かった。しかし、全国にネットワークを有する小売業や運輸業などのプレーヤー、ビットコインやブロックチェーンといったフィンテックの登場によって、新規参入が相次いでおり、その競争地図は変わりつつあります。
このような環境にあるにもかかわらず、銀行同士で競争して勝ったとか、負けたとか言っているから、護送船団の中にいると揶揄されるわけです。護送船団方式というのは、最も速度の遅い船に速度を合わせて、船団の統制を図ることになぞらえたもので、金融界ではこのような考え方が顕著でした。
護送船団って、どういうことかわかるかと、社員に問いかけています。同じスピードで船が進んでいると、相手は止まったように見える。もしかしたら自分たちは他の銀行よりも進んでいると思っているかもしれないが、それは大きな間違いで、周囲を見渡すと小さくても高速艇のような船がビューンと追い抜いていっているのが現実です。