事業環境が日々変化する中、日本企業が抱える問題はさまざまだ。とりわけ、グローバルで事業を展開する上で、国内外で円滑にビジネスを進めるためにどのようなリーダーシップシップチームを構築すればいいのかという課題は、トップマネジメントが常に頭を悩ましていると言えよう。

2025年3月に都内で開催されたビジネスラウンドテーブル「形骸化しがちなCxO体制を再構築 組織と人の変革を促す『リーダーシップチーム』のあり方」(主催:ダイヤモンドクォータリー、協賛:日本総研)では、大企業のトップマネジメント層が集まり「どのようにリーダーシップチームを編成するのか」「次世代のリーダーシップチームをどのようにつくっていくか」というテーマで白熱した議論を展開した。

本ラウンドテーブルでは資生堂 シニアアドバイザーの魚谷雅彦氏が登壇、「世界で勝てる日本発のグローバルビューティカンパニーを目指して」と題して基調講演を行った。本稿では、魚谷氏が自身のキャリアを振り返りながら、グローバル企業におけるリーダーシップのあり方と、自身のCxO制度にまつわる体験を語った講演をリポートする。

コンフリクトを前向きなものとして受け入れる

私は日本や世界のFMCG(日用消費財)企業でマーケティングや経営マネジメントを30年以上経験していますが、それぞれで日本とグローバルの両方の強みを活かした「ハイブリッド型」の経営を推し進めてきました。

自身のキャリアを振り返ると、1977年にライオンに入社したのですが、なぜライオンに入社したかというと、社内留学制度もあったからなんです。高校時代から英語が好きで、大学時代には絶対に留学したいと心に決めていました。

最初は商社に入社して世界を股にかけたいと志していたのですが、その時志望した商社は学部指定があり、私は文学部だったので入れなかったのです。そうであれば、日本といえばものづくりだと、メーカーを志望しました。

就職活動の面接でも、「あなたは当社に何が貢献できると思いますか」と聞かれたら、「留学させていただいたら、何かできると思います」と言っていました。ライオンに入社してからも留学のことばかり言っていたのですが、これが後々転機をもたらすのです。

しかし、入社してから最初の数年間は大阪の現場営業で、留学できる見込みもなく思い悩み始めていたのですが、すると、人事部から「留学試験を受けなさい」と伝えられました。誰かがどこかで見ていてくれていたのでしょうか。

そして、コロンビア大学のビジネス学部に留学しました。大学のビジネスクラスで驚いたことがありました。1980年代初頭だったのですが、生徒の30%が女性で、30カ国以上から来ていたのです。その当時から多様性を尊重していたのです。この環境で私は鍛えられました。ディベートでも、教授に対しても自分の意見をはっきりと言うことの重要さを学んだのです。

コロンビア大学でMBAを取得した後、現在のモンデリーズ・ジャパンを経て1994年に日本コカ・コーラへ入社しました。コカ・コーラから学んだ経営についても学びを一言で言い表すと「ブランド価値」です。ブランド価値とは、企業価値、持続的な成長、そして高いROE(自己資本利益率)を形成する無形資産である、ということですね。そしてグローバルブランドではあるが、ローカルな戦略も持ち合わせていたことです。

また、グローバルビジネスマネジメントとローカルマネジメントの間では、毎日のように融和とコンフリクト(対立)が起きている会社でした。この融和とコンフリクトを繰り返すなかでも、お互いに謙虚さ(Humble)と自信(Confidence)を持っていました。この2つの合わせた造語の「HUMBLE CONFIDENCE」という企業カルチャーが社内に浸透していたからこそ、コンフリクトも前向きなものとして受け入れられたのです。

組織の融合と対話を促すリーダーシップとは資生堂シニアアドバイザー 魚谷 雅彦 氏
1954年奈良県生まれ 。同志社大学卒業後、コロンビア大学ビジネススクールMBA 取得。 日本および世界のFMCG 企業でマーケティングや経営マネジメントを30年以上経験。日本コカ・コーラでは、日本とグローバルの両方の強みを活かした「ハイブリッド型」経営スタイルを確立した。2014年4月、執行役員社長CEOとして資生堂に入社。2017年には、2020年の目標としていた売上高1兆円超を3年前倒しで達成、営業利益も2年前倒しで達成した。 2020年には新型コロナウイルス感染拡大により、ビジネスは大きな影響を受けたが、短期間で構造改革を実現した。