(3)デジタルコネクティビティ
 インド太平洋地域では、デジタル・トランスフォーメーション(DX)のスピードが加速し、IoTによるデジタルコネクティビティが指数関数的に成長しています。携帯端末は、公共サービス、民間サービス、生活、教育、医療、あらゆる場面において不可欠なデバイスとなり、社会的弱者の支援、彼らの地位向上のためにも有益なツールです。

 横浜が「国際ITビジネス交流特区」として位置付けられているように、ケララ州都のティルヴァナンタプラムには、シリコンバレーを参考に建設されたIT産業特区「テクノパーク」があります。そのテクノパーク内に日産自動車がグローバルデジタルハブを設立しました。

 インドに拠点を置き、インド企業と連携することで、DXに弾みがつき、さまざまな相乗効果が期待できます。それは、インドの人件費が安いからではなく、そのスキルと能力が優れているからなのは、あらためて申し上げる必要はないでしょう。

 (4)スキル開発
 インドに進出する日本企業の多くが、日本と同水準のものづくり人材を現場に十分配置できないという課題を抱えてきました。

 2016年11月に世耕弘成(せこう・ひろしげ)経産大臣とスジャン・チノイ駐日大使(ともに当時)が「ものづくり技能移転推進プログラムに関する協力覚書」に署名しました。同プログラムでは、10年間で3万人のものづくり人材を育成することが掲げられています。

 その試みの一つが、「日本式ものづくり学校」、通称JIM(Japan-India Institute for Manufacturing)です。製造現場に必要な方法論や規律、たとえばカイゼン、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)など、実践的な技能を日本人技術者が直接指導し、1~3年かけて将来の現場リーダーを育成するというものです。スズキ、ダイキン工業、ヤマハ発動機、トヨタ自動車、日立建機などがJIMに参画し、2019年11月現在で12校が開校されています。

 このほか、中間管理職や経営者層の育成のために、パナソニックや明電舎などが参画している、インド国内の大学に製造分野の実践的な専門教育を提供するJEC(Japanese Endowed Courses)という寄付講座を設けている学校が4校あります。

 産業試験センターと共同技能プログラムが主体となる政府間協定も、多数締結されています。その一例が、インドの労働者を日本で訓練する日本の技術インターン研修プログラム(TITP)です。3~5年を目処に、30万人のインド人技能実習生を日本へ送り出すことが決まっています。

 日本の歴史学者、家島彦一(やじま・ひこいち)氏によると、インドはユーラシア大陸の各海域の中心に位置し、海域内の各地域を安全・確実・迅速に結び付け、海域間、国際間をつなぐ役割を果たしていたそうです。欧米や新興諸国はいまでもそのようにインドと付き合っています。偏った国際化から真のグローバル化へと向かうのであれば、日本企業は、かつてのようにインドともっと向き合う必要がありますね。

 インド太平洋という我々が共有するこの地域は、世界のGDPの60%、世界経済の成長の3分の2を占めています。そこでの存在感を高めるべく、日印両国はさまざまな目標を掲げてパートナーシップを強化していくべきです。

 たとえば、インフラ創造のための持続可能なPPP(公民連携)の環境を整備する、貿易障壁を撤廃する、国境を超えたエネルギーの流通とクリーンなエネルギーへの移行のためのインセンティブを用意する、世界的な地位向上のためにデジタル技術をさらに進歩させる、成長や開発のスピードをより加速させるための新しい形の金融手段を模索する、最高レベルのテクノロジーを獲得するなど、いろいろ考えられます。

 そのためにも、まず、日本企業の皆さんには、現在のインドについてもっと知っていただきたい。そして、長きにわたる日本とインドの関係とさらなる発展について考えていただきたい。そこから、きっと共感が生まれてきます。この共感こそパートナーシップの始まりであり、共存共栄の核心なのです。


  1. ●聞き手|岩崎卓也(ダイヤモンドクォータリー編集部)   ●構成・まとめ|奥田由意 
    ●撮影|佐藤 元一