(1)インフラ
 インド太平洋地域において、質の高いインフラ建設のための日印パートナーシップを組むことです。

 インフラは、インドでも大きな可能性がある分野で、日本の支援を受けた大規模なプロジェクトが進行中です。高速鉄道や南アジアの連結性強化につながるインド北東部での橋梁建設などを含む7案件について円借款供与が行われていますし、高速鉄道建設事業に関わる人材育成に向け、日本はインドの鉄道省などからの研修生を受け入れています。

 また、2023年の全線開通を目指して、インドで日本の新幹線方式を採用した高速鉄道整備が進んでいます。ムンバイ|アーメダバード間505キロメートルを2時間7分で結ぶ新幹線プロジェクトが、その筆頭です。

 先ほど申し上げた両国の民間部門と公共部門が協業したデリーメトロ・プロジェクトの成功に続き、この新幹線プロジェクト──合計18本の新幹線が日本から輸入されるというものです──が成功すれば、インドは世界的な高速鉄道保有国となります。

 インフラプロジェクトのもう一つの目玉として、スマートシティが挙げられます。第1次モディ政権は、発足直後の2014年、地方から都市部への人口流入を吸収し、拡大する中間層の住居確保のため、その受け皿となるスマートシティを国内100カ所に設ける「スマートシティミッション」計画を発表しました。

 日本政府は2017年1月、西部グジャラート州アーメダバード市、南部タミルナドゥ州チェンナイ市、北部ウッタルプラデシュ州バラナシ市のスマートシティ開発への協力を約束しています。西部の専用貨物回廊や、インド北東部の戦略的に重要なインフラプロジェクトも、日本の支援を受けて開発されています。日本企業も数々のスマートシティ事業に参画しています。

 横河電機は2018年7月、ラジャスタン州の州都ジャイプールにおけるスマートシティ構想の一環となる、上下水道情報中央管理システムを受注していますし、建設コンサルティングの日本工営は同年12月、ポンディチェリ連邦直轄領におけるスマートシティ開発に関連する設計、マネジメント、コンサルティング業務を共同受注しています。

 そのほか、NECテクノロジーズは、統合管理センターやIoT関連システムなどの構築などの分野ですでに進出していますが、2019年1月に、IITボンベイ校とスマートシティ実現に向けた共同研究を開始すると発表しました。

 KPMGも、こうしたコラボレーションに関して、複数の企業や政府機関とのセクター間でのアドバイスを提供しています。インフラプロジェクトにおける、両国の意思決定のスピード、スケジュールの遅延の少なさ、長期的な投資へのコミットメントは特筆に値します。

 (2)アフリカへの共同投資
 インドは、東にASEAN諸国、北に中国、西に中東やアフリカ地域と近接しています。日本が東アジアのサプライチェーンにインドを加えると同時に、インド以西の有望市場である中東やアフリカ市場についても、インドを進出の足がかりにできるでしょう。実際、日本は2016年11月に発表した日印共同声明で、アフリカの開発、産業ネットワーク開発で対話を重視しながら進めていくと述べています。

 まず、インドは日本企業がアフリカに進出するための入り口のような役割を果たしています。地理的にも近いことから、インドは、アフリカのさまざまな国と長く深い関係を持っています。

 インドは古くからアフリカ東部沿岸地域と交易があり、アラビア半島のイスラム王朝を経たモンスーン貿易を通じて、両国の往来は大きく進展しました。19世紀には、イギリスの植民地政策の下、多数のインド人がプランテーション労働者として東南部アフリカに渡っています。また、19世紀後半には、労働者だけでなく、技術者や商人などもアフリカに移住し、モーリシャスやタンザニア、ケニア、南アフリカ共和国などの東南部アフリカを中心に、インド移民コミュニティが形成されていきました。

 このようにアフリカには、1世紀以上にわたって定住してきたインド系移民たちの経験、人的ネットワークや地縁といったリソースがあるのです。現に、主要国の輸出において対アフリカの占める割合を比較すると、2017年でインドが最大です。

 日本企業がアフリカへの事業展開を真剣に考えているならば、インドはまさしく最高のパートナーであり、これまでの歴史的な蓄積から、現地の知識や文化的つながり、アフリカで求められるソフトスキルなどを提供することができるでしょう。実際、ダイキン工業、パナソニック、ヤマハ発動機、ヤンマーなどの企業は、在インドの拠点からそのリソースをアフリカに拡大しています。

 これと似た関係性を、インド、南アメリカ、日本の間に見て取ることができます。インドが南アメリカに進出する際に、日系移民が多く、日本が長い間深いつながりを持っている南アメリカを足がかりにできるということです。こうして見れば、日本とインドは、アフリカと南アメリカというインド太平洋の両端で、新たなコラボレーションをそれぞれ進めることができるのです。