芥川賞の選考会とは芥川賞の選考会は完全非公開とされており、今なお謎のベールに包まれている(写真はイメージです) Photo:PIXTA

文芸春秋に入社して2018年に退社するまで40年間。『週刊文春』『文芸春秋』編集長を務め、週刊誌報道の一線に身を置いてきた筆者が語る「あの事件の舞台裏」。今回は、知られざる芥川賞選考会の実情について、司会者の目から見た真実をお伝えします。(元週刊文春編集長、岐阜女子大学副学長 木俣正剛)

「文芸春秋」編集長がハラハラする
年2回の芥川賞選考会

 私は『文芸春秋』の編集長として、芥川賞選考会の司会を4回務めました。司会が編集長であることは、案外知られていません。

 選考会は厳粛で、編集者である司会者が作品について発言することは禁じられていますし、そもそも選考会の議論について録音も録画もしません。メモとしての記録も残さないというのがルールですから、司会者の存在など本当に薄いのです。

 しかし、サラリーマンとしての月刊『文芸春秋』編集長にとって、芥川賞受賞作が出るかどうかは、部数維持に大きな影響があります。受賞作が出ると、通常号より約20万部増。選考会は半年に1回あるので、芥川賞が出ると1号あたり平均で3万から4万部増になる計算です。

 司会をしながら、アタマの中を「部数」という数字がグルグル回るのが正直なところです。しかし、できることは何もありません。歴代編集長は、それぞれ必死のゲン担ぎをしました。私の場合は、文春の氏神さまである赤坂豊川稲荷に当日参ること。できれば、京都の親の墓参りも済ませること。

 当日、豊川稲荷のおみくじを引くのですが、これがよく当たりました。大吉だと2作受賞。2作受賞だと部数は40万部近く増えるので、文字通り大吉です。吉だと1作受賞。そして凶が出たときは受賞作なし。

 4回の選考会で、2作受賞2回。1作受賞1回。受賞作なし1回。まさにおみくじ通りの展開になりました。ただし、編集長として部数増に貢献したものの、文芸春秋の出版物が受賞したことは一度もありませんでした。よって私の時代は、社の書籍の売り上げには全くつながらなかったのです。