とりわけスパイダーマンシリーズは顕著な成果をもたらしました。2002年と2004年のマーベルの営業利益は、スパイダーマンが半分を占めていました。映画公開がなかった2003年でさえ、営業利益の3分の1がスパイダーマンによるものでした。2004年にはついに負債を一掃、黒字の累積により株主資本も盤石となり、健全な企業に生まれ変わったのです。

 ライセンス事業はマネタイズとして理想的でした。著作権が前払いで支払われ、なおかつ興行収入に伴って数%のロイヤルティーも入ってくるからです。このビジネスモデルは、再建期のマーベルを健全化する上で、大きな成果をもたらしました。

フェーズ3.マネタイズから価値創造へ
自社での映画製作にかじを切る

 健全な財務体質を得たマーベルは、自分たちのリスクで映画を製作しマネタイズをするようかじを切ります。一般的に映画製作は当たれば莫大な収益が得られるものの、投資規模も大きく、それだけリスキーです。そのため参入障壁が極めて高いビジネスですが、マーベルはメジャースタジオとの協業を通じて、映画製作のリスクを正当に見極められるようになりました。

 マーベルが独自に映画を作るきっかけの一つに、ライセンスだけでは回収できる利益が小さかったことも否定はできません。しかし、もっと大きな理由は、財務的に健全となったマーベルが、このままライセンスを続けてキャラクターをすり減らすよりも、自分たちでもう一度キャラクターの価値を高めていくことが、これからのマーベルのあり方として正しい道筋であると判断したからです。

 こうした事情から、タレントエージェンシーから映画製作スタジオへと価値提案を刷新します。以前までライセンス管理のためだけに置いていた「マーベル・スタジオ」という名ばかりのオフィスを、実際に映画製作を行う独立系スタジオへと作り変えるのです。さっそくメリルリンチから5.3億ドルを低利息で借り入れることに成功し、それを元手に、マーベルでは“2軍”のタレントである『アイアンマン』を実写化します。

 キャラクターの知名度が劣っているという心配をよそに、『アイアンマン』はふたを開けてみると公開時の全米興行収入で1位を獲得。全世界興行収入で最終的に約5.9億ドルを稼ぎ出す大ヒット作となりました。

 それは、著名俳優や監督でヒットを作ろうとするハリウッドメジャーのやり方ではなく、「キャラクター・ファーストの映画製作」という価値提案がもたらした成果でした。その価値提案がいかに強固で有効であるかは、続く作品群の『インクレディブル・ハルク(アイアンマンと同時企画)』『マイティ・ソー』『キャプテン・アメリカ』で証明されました。しかも、これらは単発の作品でありながらも、同じ世界観を共有しており、最後には『アベンジャーズ』で一つに集約されるよう設計されているのです。それこそが、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)です。

 一貫性を持った世界観は、キャラクターを中心に据えた映画製作会社という価値提案でこそ実現できたものです。そうして生まれた作品群が、いまなおファンを魅了し続けているのです。