圧倒的な品揃えと便利さで消費者を魅了するアマゾン。しかし、その労働現場の実情を知ってなお、日本人は無批判にアマゾンを受け入れられるのか。「潜入ルポamazon帝国」(小学館)を発表したジャーナリストの横田増生氏に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 津本朋子)

時間に追われながら
毎日20キロを歩いた

横田増生氏よこた・ますお/1965年福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。93年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。99年よりフリーランスとして活躍。主な著書に、『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』、『評伝 ナンシー関「心に一人のナンシーを」』、『仁義なき宅配 ヤマトvs佐川vs日本郵政vsアマゾン』、『ユニクロ潜入一年』など

――2005年に「アマゾン・ドット・コムの光と影」という、やはりアマゾン潜入ルポを出版しましたが、今回2冊目を書こうと思った理由は?

 前著の文庫版が在庫切れになったことで、小学館に増刷話を持って行ったんです。最初は少しだけ加筆すればいいかなと思ったんだけど、「せっかくだったら改めて書きましょう」と提案されました。

 アマゾンは取材をあまり受けない会社です。特に僕の場合は完全にNGらしく、日本ではもちろん、シアトルの本社に行くと伝えても、絶対に受けない。

 その上、またあの倉庫に潜入するだなんて、正直嫌だなと思いました。ただ、いつまでアマゾン批判の本を出せるのかなって。アマゾンの存在感はどんどん増しているから、出版社だって批判本は出しにくくなってきています。今がラストチャンスかもしれない。そう思ったんです。

――前回は6ヵ月、今回は2週間の潜入取材でした。

 前回はまだ30代でしたからね。今は6ヵ月なんて絶対無理。体力が持ちません。2週間、ネタを集めるために行きましたけどね。毎日涙目でしたよ(笑)。

――アマゾンのバイトは、どのあたりが一番辛かったですか?

 たくさん歩くことでしょうね。歩数を計測できる機能のついた時計を身につけて測ったんですが、6時間45分の労働時間で歩行距離は20キロを超えるんです。10時間働いている人は30キロ以上になるんじゃないでしょうか。

 しかも、ハンディー端末でピッキング時間を管理される。「あと30秒、25秒、20秒」…時間切れになるとピピッとアラームが鳴るわけです。ただ歩くだけならまだしも、こうやって常に追い立てられるわけですから、そりゃあ辛いですよ。「そんなの無視すればいいじゃない」という人もいるけれど、僕みたいにお金のためじゃなくて、期間限定でネタ集めのために働いているような人間だって、気にしないではいられなかった。全部記録が残って、後で指導されたりしますしね。