企業で働く若手社員の中に、「新型うつ」と呼ばれる心の病が流行っている。この病気の難点は、患者が周囲の理解を得にくいことだ。職場でうつ状態になって仕事を休んでいるのにプライベートでは元気に遊び回る患者の姿を見て、上司や同僚は「仮病ではないか」と不信感を露にする。しかし患者自身は、得体の知れない気分の浮き沈みに苦しみ、疲弊している。職場を混乱させる「新型うつ」の正体とは何か。パニック障害の第一人者として、多くの患者を治療してきた貝谷久宣・医療法人和楽会理事長は、「メディアで新型うつと呼ばれる病はうつ病ではない」と持論を展開し、医療現場や企業の職場に蔓延する誤解に対して警鐘を鳴らす。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)

「新型うつ」はうつ病ではない
むしろ「非定型うつ病」に似ている

かいや・ひさのぶ/医療法人和楽会理事長、特定非営利活動法人 NPO不安・抑うつ臨床研究会代表、社団法人 日本筋ジストロフィー協会理事長。1943年生まれ、愛知県出身、名古屋市立大学医学部卒。ミュンヘン・マックスプランク精神医学研究所留学、岐阜大学医学部助教授、自衛隊中央病院神経科部長、岐阜大学客員教授を経て1993年開院。米国精神医学会会員、2009年第1回日本不安障害学会会長などを歴任。『社交不安障害』(新興医学出版社)、『非定型うつ病 パニック障害・社交不安障害よくわかる最新医学』(主婦の友社)、『不安・恐怖症のこころ模様』(講談社)など著書多数。

――企業で働く若手社員の中に、「新型うつ」と呼ばれる心の病が流行っています。この病気の難点は、 周囲の理解を得ることが難しいこと。うつ病のような症状で仕事ができなくなり、休暇を取っているのに、プライベートで元気に飲み会に参加したり旅行に行っ たりしている様子が、ツイッターなどに書き込まれている。それを見た職場の上司や同僚が、「仮病ではないか」「まったく近頃の若い者は」と憤るといった話をよく 耳にします。確かにこのようなケースでは、周囲の誤解を招くのも無理はありません。「新型うつ」とは、いったいどんな病気なのでしょうか。

「新型うつ」という言葉は、そもそも心理学用語になく、メディアによる造語です。私も、患者の治療をする際にそういう言葉は使いません。

 私がこれまでの臨床経験から言えることは、世間で「新型うつ」と呼ばれている病気は、単なるうつ病ではなく「非定型うつ病」の兆候に似ているということ。まったくイコールとは言い切れませんが、ほぼそうだと考えられます。

――「うつ病」と「非定型うつ病」の違いとは?

 うつ病は、原因もなくいつ何時でも深い憂鬱感が湧いてきますが、「非定型うつ病」の特徴は、本人にとって都合の悪いことに対面すると気分が沈み込んだ状態が続くものの、よいことや楽しい出来事があると、それまでの不調がウソのようにたちまち元気になるということ。