新型コロナウイルスによってもたらされる脅威が、長期中断から明けたばかりのJリーグを再び襲っている。26日に予定されていたサンフレッチェ広島対名古屋グランパスの試合が、グランパスに3人の新規感染者が出た影響を受けて試合当日に中止となった一件は、サッカー界に少なからず衝撃を与えた。全56クラブに対して2週間ごとに行っている公式PCR検査が、感染の再拡大のペースに追いつかない現状が露呈した。Jリーグが実施している感染予防対策に生じつつある盲点を探った。(ノンフィクションライター 藤江直人)
グランパスが悪いわけではない
雷雨や暴風雨、積雪などを伴った著しい気候変動。あるいは台風や地震、火山活動など自然災害の発生――。
こうした理由でJリーグの公式戦が中止となったケースは、少なくない。2018年9月には北海道胆振東部地震の影響で、札幌ドームで予定されていた日本代表戦が中止になったこともある。
しかし、7月26日に行われる予定だったサンフレッチェ広島対名古屋グランパスの試合は、全く異なる理由でキックオフ7時間前の午前11時に急きょ中止となった。グランパスから3人の新型コロナウイルス感染者が出た影響と記された中止理由は、決して小さくはない衝撃を伴っていた。
発端は24日だった。38度の発熱と頭痛を訴えたDF宮原和也がPCR検査を受けた結果、陽性判定が出た。前日まで平熱だった宮原は練習にも参加し、リザーブだったものの、22日に昭和電工ドーム大分で行われた大分トリニータとの明治安田生命J1リーグ第6節にも同行していた。
宮原の行動履歴を含めた情報を提供された所轄保健所は、クラブ内に濃厚接触者はいないという判断を下した。それでも、事態を重く見たグランパスは25日に、選手およびトップチームのスタッフ計60人に対して急きょPCR検査を実施。さらにMF渡邉柊斗とスタッフ1人から陽性判定が出た。
こうした緊急事態を受けて26日午前8時から、Jリーグの村井満チェアマンとグランパスの小西工己代表取締役社長が緊急会談し、サンフレッチェ戦の開催中止を決めた。だが、中止の二文字がインパクトを伴っていたこともあり、新規感染者が出たという理由が独り歩きしてしまった感は否めない。
独り歩きと表現したのは、グランパスの選手およびスタッフが新型コロナウイルスに感染したから中止になり、グランパスが悪いという風潮が広がっているためだ。