◆「すべて同意! ビジネス価値創出への『5つの心構え』をまとめた決定版だ」(入山章栄・早稲田大学ビジネススクール教授)
◆「これは仕事術ではない。ゲームのルールは変えられることを証明した珠玉の実践知だ」(鈴木健・スマートニュース創業者・CEO)
 コロナ禍で社会構造やビジネスモデルが変化する今、「生産性」「効率」「成果」が見直されている。そんな中、各氏がこぞって大絶賛するのが『その仕事、全部やめてみよう』という書籍だ。
 著者は、ITベンチャーの代表を10年以上務め、現在は老舗金融企業のCTOを務める小野和俊氏。2つのキャリアを通して、それぞれがどんな特徴を持ち、そこで働く人がどんなことに悩み、仕事をしているのかを見てきた。その中で、ベンチャーにも大企業にも共通する「仕事の無駄」を見出す。
 本連載は、具体的なエピソードを交えながら、仕事の無駄を排除し、生産性を高めるための「仕事の進め方・考え方」を解説するものだ。

遊び人が「賢者」になる日――ジョブズに学ぶキャリア戦略Photo: Adobe Stock

 国産RPGの金字塔『ドラゴンクエストⅢ』には「遊び人」という職業があり、レベル20まで育てると、「賢者」に転職することができる。

 子どもの頃は「なぜ遊び人が急に賢者になれるのだろう?」と疑問に思ったものだ。だが大人になって考えてみると、このシステムは極めて示唆に富んでいるように思える。

 というのも、現代においては、「遊び」を極めることで賢者への道が開けることが往々にしてあるからだ。

 例えば、iPhoneの発明などで知られるAppleのスティーブ・ジョブズには有名な逸話がある。スティーブ・ジョブズは大学時代、学校に通い続けることに意味を見いだせなくなり、退学を決めた。そこからは必修科目ではなく、興味のある授業にだけ潜り込むようになった。

 そこで出合ったものの1つが「カリグラフ」。文字の形状の美しさに関する学問だ。当時は何の役に立つとも思えなかった経験が、後に「美しいフォントを持つコンピューター」であるマッキントッシュの誕生につながったのである。

 スティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学卒業祝賀スピーチにおいて次のように話し、このカリグラフの事例のように、「役に立つようには思えない」ことが将来へつながっていく様を”Connecting the dots”(点と点をつなぐ)と言った。

 もちろん当時は、これがいずれ何かの役に立つとは考えもしなかった。ところが10年後、最初のマッキントッシュを設計していたとき、カリグラフの知識が急によみがえってきたのです。そして、その知識をすべて、マックに注ぎ込みました。美しいフォントを持つ最初のコンピューターの誕生です。もし大学であの講義がなかったら、マックには多様なフォントや字間調整機能も入っていなかったでしょう。ウィンドウズはマックをコピーしただけなので、パソコンにこうした機能が盛り込まれることもなかったでしょう。もし私が退学を決心していなかったら、あのカリグラフの講義に潜り込むことはなかったし、パソコンが現在のようなすばらしいフォントを備えることもなかった。もちろん、当時は先々のために点と点をつなげる意識などありませんでした。しかし、いまふり返ると、将来役立つことを大学でしっかり学んでいたわけです。繰り返しですが、将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。運命、カルマ…、何にせよ我々は何かを信じないとやっていけないのです。私はこのやり方で後悔したことはありません。むしろ、今になって大きな差をもたらしてくれたと思います。
(『日本経済新聞』 2011年10月9日『「ハングリーであれ。愚か者であれ」ジョブズ氏スピーチ全訳』)より一部抜粋
https://www.nikkei.com/article/DGXZZO35455660Y1A001C1000000/

 この話は極めて示唆的だ。

 「役に立つように思えなかった何か」に没頭したことが、ある日、自分のとり組むべき仕事に直結し、それがイノベーションにつながる。だが、とり組んでいるときは何も見えない。没頭してとり組んだすべてが、何かに必ずつながるわけではない。

 しかし、こうした引き出しを持っているかどうかで人生は違うものになってくる。