「いいね!」欲しさにのめり込むインスタやフェイスブック、「あと1回」が終わらないスマホゲーム、朝まで一気見してしまうネットフリックス、さらには頻繁すぎるメールチェック……。
現在、薬物やアルコールなどの物質への依存だけではなく、「行動」への依存も広がっている。この「新時代の依存症」を、心の仕組みと、私たちをのめり込ませる「依存症ビジネス」の仕掛けの両面から読み解き、さらにはその対処法まで示して世界中が絶賛した『僕らはそれに抵抗できない』が日本でも発売された。ジョブズをはじめ絶大な影響力で世界にテクノロジーを広めてきた人々が頑なに守っている“教え”を手がかりに、「いいね!」の魔力の秘密を解くプロローグの一部をご紹介しよう。
自分の商品でハイになるな
――ジョブズと“売人”に共通する教え
2010年1月。アップルのイベントステージでiPadなる端末を発表したスティーブ・ジョブズは、こう語っている。
ジョブズは90分にわたり、iPadは写真を見るにも音楽を聴くにも優れていると力説した。iTunes Uで勉強し、フェイスブックを閲覧し、ゲームで遊び、数千種類のアプリを活用するにあたっても、iPadこそが最高の選択肢である、と。誰もが1台ずつiPadを所有するべきだ、と彼は固く信じていた。
だが一方で、こんな事実がある。ジョブズは自分の子どもらにiPadを使わせていなかったのだ。
ジョブズは2010年末に『ニューヨーク・タイムズ』紙の取材を受けた際、記者のニック・ビルトンに対し、自分の子どもたちはまったくiPadを使っていないと語っている。「子どもが家で触れるデジタルデバイスは制限しているからね」
ジョブズだけではない。ビルトンの記事によれば、IT業界の大物たちの多くが似たようなルールを取り入れている。『WIRED』誌の元編集長クリス・アンダーソンは、家庭内のデバイスそれぞれに厳しい時間制限を決めているという。「テクノロジーの危険性をこの目で見て来た」からだ。彼の子ども5人は寝室にデジタルスクリーンを持ち込んではいけないことになっている。
ブログプラットフォームの「ブロガー」や「メディアム」、そしてツイッターを生み出したエヴァン・ウィリアムスも、幼い息子2人のために数百冊の書籍を買いそろえる一方で、iPadは与えていない。
テクノロジー分析会社サザーランド・ゴールドの創業者レズリー・ゴールドの家庭では、平日のスクリーン使用時間はゼロ。宿題をするのにコンピューターを使わねばならないときだけ、そのルールをゆるめる。
ジョブズの伝記を執筆したウォルター・アイザックソンは、ジョブズから自宅での夕食に招かれたときの様子を明かしている。
「誰もiPadやコンピューターを取り出したりしなかった。子どもたちがデジタルデバイスにハマっている様子はまったく見られなかった」
自分がさばく商品でハイになるな――。彼らはまるで、薬物売人の鉄則を守っているかのようだ。