「目の前の“あたりまえ”に対して、『それって絶対じゃなくない?』って言えるかどうか。すべてはそこから生まれる」――オリエンタルラジオの中田敦彦さんが話題の「YouTube大学」で大絶賛した一冊の本をご存じだろうか? 無名の美術教師による初著書だったにもかかわらず、各界のオピニオンリーダーらやメディアから絶賛され、瞬く間に9万部を突破するベストセラーとなった『13歳からのアート思考』だ。
 同書では、中高生向けの「美術」の授業をベースに、「アート思考」のプロセスをわかりやすく解説している。タイトルには「13歳の……」が冠せられているものの、感動の声をあげているのは、主に「ビジネスパーソンを中心とした大人の読者たち」のようだ。果たして『13歳からのアート思考』の何が読者の心をつかんでいるのだろうか?

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「これがアートだというようなものは、
ほんとうは存在しない」

 かつて、西洋美術が花開いたルネサンス期の画家たちには「目に映るとおりに世界を写しとる」という明確なゴールがありました。それ以来、彼らはおよそ500年あまりにわたって、3次元の世界を2次元のキャンバスに描き出す技術を発展させてきたのです。

 しかし、19世紀に発明された「カメラ」が20世紀に普及していったことによって、彼らを取り巻く状況は一変しました。絵画による「目に見える世界の模倣」は、写真撮影という技術革新によって容易に代替されてしまったからです。

 とはいえ、これによってアートが死に絶えることはありませんでした。

 それどころか、20世紀以降のアーティストたちは「写真にできないこと、アートにしかできないことはなんだろうか?」という問いを立て、自分たちの好奇心の赴くままに、これまでになかった探究をはじめたのです。

 『13歳からのアート思考』でご紹介しているのは、彼らの巨大な「探究の根」のごく一部でしかありません。しかし、そのなかでも「最も核心に迫っている本質」だけを慎重に選び取ったつもりです。各クラスで取り扱った問いと作品は次のとおりです。

・クラス1 「すばらしい作品」ってどんなもの?/アンリ・マティス《緑のすじのあるマティス夫人の肖像》
・クラス2 「リアルさ」ってなんだ?/パブロ・ピカソ《アビニヨンの娘たち》
・クラス3 アート作品の「見方」とは?/ワシリー・カンディンスキー《コンポジションⅦ》
・クラス4 アートの「常識」ってどんなもの?/マルセル・デュシャン《泉》
・クラス5 私たちの目には「なに」が見えている?/ジャクソン・ポロック《ナンバー1A》
・クラス6 アートってなんだ?/アンディー・ウォーホル《ブリロ・ボックス》

 このような問いについて探究した20世紀のアーティストたちは、「目に見える世界の模倣」に縛られていた時代には考えもつかなかった「新しいものの見方」を、次々と生み出してきました。

 そして、21世紀を目前に、アーティストたちの冒険は、ついに「アートという枠組み」そのものを消し去るところまでに至ります。

 「これがアートだというようなものは、ほんとうは存在しない

 歴史家・美術史家のエルンスト・ゴンブリッチは、古代から20世紀までの美術の歴史を書き綴った大著『美術の歩み(The Story of Art)』をこのように書き起こしました。
 しかし、彼は続けます。

 「ただアーティストたちがいるだけだ」(*1)

 さて、この言葉は何を意味しているのでしょうか?