大麻汚染が止まらない。摘発者数は年々増え続け、去年2867人で過去最多を更新。10年前の2.5倍に膨れ上がっている。

 私たちの市民社会に、どこまで大麻が浸透しているのか、なぜこうなってしまったのか。われわれ取材班は、麻薬捜査のプロである厚生労働省の通称、麻薬Gメンの捜査に密着することで、大麻汚染の現実を探れないか、取材交渉を始めた。

 折りしも、Gメンは大麻密売をめぐる状況が激変していることに神経をとがらせていた。Gメンが長年対峙してきたのは、密売グループとつながりのある暴力団や外国人犯罪集団。しかし、今やサラリーマンや主婦、学生など一般市民が、インターネットで大麻の種を買い、大麻草を栽培する時代。捜査のターゲットを一般市民に向けざるを得ないのだ。

 Gメンは、インターネットで大麻の種を売るサイト「クリスタルシーズ」の顧客、のべ1600人を一斉摘発する方針を決めたばかりだった。NHKのカメラが、市民を対象にしたかつてない規模の捜査に同行することになった。

顧客は1600人!?
副業で大麻栽培する会社員

 捜査が大きく動いたのは2月。種を買った客の1人。千葉県内に住む30歳の建築測量会社の社員の自宅を捜索すると大量の大麻が見つかった。末端価格で数十万円ほど。自分で吸うのにこれだけの量は必要ない。Gメンは密売目的で大麻を栽培しているとにらんだ。しかし、所持よりも罪が重くなる栽培について、男は否認を続けた。

 Gメン:「じゃあ誰から買ったんだよ」

 男:「外人」

 Gメン:「ふざけるな」

 Gメンは男を逮捕する一方、押収した品の分析を進めた。すると、男の妻の日記に決定的な記述があった。

 「だから(大麻の)栽培なんていやだったんだよ。みんな捕まってしまえ」

 「(夫が、栽培場所の)マンションから帰ってきたらしく超くさかった。やめてほしい」

 男は自宅とは別のマンションで大麻を栽培していたのだ。Gメンがマンションに踏み込むと、大量の大麻草が散乱していた。男は、友人の男と一緒にマンションで大麻を栽培し、いわば副業として、友人や知人に密売していた。2年間におよそ460万円を売り上げたという。

 さらに、男から大麻を買った顧客の中には、利益分を上乗せして転売していた会社員もいた。1600人の顧客の1人の男が大麻を栽培し会社員に密売。さらに会社員も別の市民に転売・・・。友人、知人などを介して広がりを見せる大麻汚染。

 市民同士の大麻密売の実態について、数年前まで大麻を栽培していた20代の会社員は実情を語る。

 「栽培すると、本当に(大麻が)たくさんできちゃうんで。仲の良い人にはタダであげてました。例えば、誕生日のときに『おめでとう』とか」

“副業”で大麻栽培する会社員から、“ノリ”で手を出す若者まで。「大麻汚染」はどこまで市民に広がっているのか?
大麻密売の実態を語る20代の会社員。彼も数年前まで大麻を栽培しており、誕生日プレゼントとして友人に大麻をあげたこともあるという。