それは、どの国からも直接攻撃できない離れた位置にあるということだ。2度の世界大戦では、欧州諸国が戦場となって疲弊するのを尻目に、戦場とはならない政治的・軍事的な圧倒的優位性を生かして、米国は「覇権国家」として台頭したのだ(本連載第201回)。

中国モデルは限界露呈、ポストコロナは「コンパクト民主主義」を目指せニコラス・スパイクマン『Macedonian Academy of Sciences and Arts』より 拡大画像表示

 しかし近年、米国の「新世界」としての優位性を切り崩すさまざまな事態が起きている。北朝鮮のミサイル開発はその一例だ。米国から遠く離れた場所にある小国の北朝鮮は、同盟国である韓国や日本にとっては脅威であっても、米国が本気で相手にする国ではなかった。しかし、北朝鮮はミサイル実験を繰り返して射程距離を伸ばし、ついに大陸間弾道ミサイルを開発して米国を直接攻撃する可能性が出てきた。米国は北朝鮮を無視できなくなり、史上初の米朝首脳会談が開催されたのだ(第155回)。

 その他にも、米国を揺るがす事件が多発している。

 2016年の大統領選挙でドナルド・トランプ候補(当時)を勝利させようと、ロシアがサイバー攻撃やSNSでの世論工作、選挙干渉を行ったとされること(第201回・P.4)、中国のサイバー攻撃による知的財産侵害などだ。また、米国の通信ネットワークへの関与に懸念を示し、華為技術(ファーウェイ)などの中国ハイテク企業への対抗措置を米国が取り、「米中ハイテク戦争」の様相を呈していることなどもある(第211回・P.4)。つまり、テクノロジーを駆使して、「覇権国家」米国に対するさまざまな形での直接攻撃が可能となっているのだ。

 そして、いま米国を最大規模に揺るがしているものが、新型コロナである。米国の死者は8月5日現在、15万6830人で世界最多だ(『新型コロナウイルス、現在の感染者・死者数(5日午後8時時点) 死者70万人に』)。

 第1次世界大戦の戦死者数を上回っており、米国内でこれほど多数の死者が出た「有事」は、歴史上初めてだ。これは、米国が完全に「新世界」ではなくなったことを示しているのではないだろうか。