山中伸弥・京都大学教授のある発言が物議を醸している。「8割おじさん」こと西浦博・北海道大学教授との新型コロナウイルスに関する対談の中で「対策をしなければ今からでも10万人以上の死者が出る可能性がある」と指摘したのだ。この発言は、日本の政策立案における機能不全を物語っている。その理由を説明したい。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
「8割おじさん」西浦博・北大教授と
山中伸弥・京大教授が対談
山中伸弥・京都大学教授と西浦博・北海道大学教授の対談がユーチューブで公開された(公開期間は2020年10月31日まで)。その中で山中教授は、日本の新型コロナウイルスの流行状況について「対策をしなければ今からでも10万人以上の死者が出る可能性がある」と指摘した。
山中教授は、日本やアジア諸国で新型コロナウイルスによる感染者や死者が少ない要因を「ファクターX」と呼んできた(本連載第243回)。しかし、西浦教授は対談の中で「日本人の死亡リスクが海外よりも低いということはなさそうだ」「ファクターXがあるかどうかは検証の途中。それまでは万人単位の被害が日本でも十分に想定される」と説明した。
西浦教授は4月15日に、まったく対策をとらない場合、コロナによる国内の重篤患者が約85万人に達し、その49%(単純計算で41万人超)が死亡するという試算を発表していた(第242回・P7)。だが、そのような事態は起こらなかった。西浦教授の試算の根拠はいまだに示されないままだ。