天才数学者たちの知性の煌めき、絵画や音楽などの背景にある芸術性、AIやビッグデータを支える有用性…。とても美しくて、あまりにも深遠で、ものすごく役に立つ学問である数学の魅力を、身近な話題を導入に、語りかけるような文章、丁寧な説明で解き明かす数学エッセイ『とてつもない数学』が6月4日に発刊。発売4日で1万部の大増刷、その後も増刷が続いている。
人気の数学塾塾長が数学の奥深さと美しさ、社会への影響力などを数学愛たっぷりにつづる。読みやすく編集され、数学の扉が開くきっかけになるかもしれない」(朝日新聞2020/7/25掲載)、佐藤優氏「永野裕之著『とてつもない数学』は、粉飾決算を見抜く力を付ける上でも有効だ」(「週刊ダイヤモンド2020/7/18号」)、教育系YouTuberヨビノリたくみ氏「色々な角度から『数学の美しさ』を実感できる一冊!!」と絶賛されている。今回は「白銀比」をテーマに、著者が書き下ろした原稿を掲載。連載のバックナンバーはこちらから。

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日本人と白銀比

 古代ギリシャのピタゴラス(紀元前582年-496)が自然と美しく響きあう音の中に整数の比を見つけたとき、創造主である神の存在を意識したように、誰に教わるでもなく美しい(バランスが良い)と思えるプロポーションが、あらかじめ宇宙のそこここに存在していたことを知ると、少なくとも自然はデタラメではないのだろうという気分になる。

 2つの数の比が、1:1.414…(正確には1:√2)であるものは「白銀比」と呼ばれる。

 中村滋著『フィボナッチ数の小宇宙』(日本評論社)には、日本人250人に対していくつかの四角形を見せて、どの四角形が最も好ましいかを調べたアンケート結果が載っている。それによると、

 1位 縦横の比が白銀比の長方形(得票率:19.3%)
 2位 正方形《縦横の比が1:1》(得票率:17.7%)
 3位 縦横の比が黄金比の長方形(得票率:15.0%)

 だったそうだ。

 また、広島大学教授の木村俊氏によると、教室で「自分で美しいと思う四角形」を生徒に書かせたところ、多くの生徒が黄金比ではなく白銀比に近い長方形を書いたそうである。

 しかし、こうしたことは日本特有かもしれない。ヨーロッパで行われたアンケートの結果と比べてみよう。古いデータで恐縮だが、フランス美学会の最初の会長となったシャルル・ラロ(1877-1953)が1908年に行った同様の調査では、黄金比の長方形が約30%の得票率で圧倒的な1位になっている。

 一方、白銀比の長方形を好んだ人は全体の約5%だけで正方形の得票率(約11%)にも遠く及ばなかった。少なくとも20世紀初頭のヨーロッパにおいて白銀比の人気は低い。

 黄金比は正五角形の一辺と対角線の比であり、白銀比は正方形の一辺と対角線の長さの比である。具体的な値は次の通り。

 黄金比…1:(1+√5)/2=1:1.618…
 白銀比…1:√2=1:1.414…

 どちらも√を含むため正確な値が分かりづらいが、黄金比はおよそ5:8、白銀比はおよそ5:7である。