西欧の美と日本の美

 「白銀比」というネーミングは比較的最近(2000年頃から?)広まったものであり、その由来ははっきりとしないが、日本では古来よりこの比が好んで使われてきた。

 その理由は、日本の建造物は断面が正方形の角材を使うことが多いからだという人がいる。確かに、丸太から角材を切り出す際に、なるべく無駄が少ないように切り出そうとすると、角材の一辺と丸太の直径の比は白銀比になる。

 また、白銀比を―こう呼ばれていたわけではないが―日本に定着させたのは、あの聖徳太子だという説もある。実際、彼が建立した法隆寺の五重の塔や伽藍配置には白銀比が随所に盛り込まれているし、目盛りに√2が登場する曲尺(さしがね)が使われ始めたのも聖徳太子の時代である。

 現代の我々にとって、最も身近な白銀比はコピー用紙やノートでお馴染みのA判とかB判とか呼ばれる用紙サイズだろう。どちらも横と縦の比が白銀比(1:√2)になっており、何度半分に折ってもこの比率は変わらない。

 たとえば新聞はA2サイズなので、半分に切ればA3、さらに半分に切ればA4の紙が作れる。紙を裁断して販売する際にも無駄がなくていい。一般に、長方形の紙の縦と横の比が白銀比でない場合は半分にすると縦と横の比は別の比になってしまう。

 A判として最大のA0版は面積が1平方メートルになるように定められていて、最初はドイツの工業規格だったものが現在は国際規格になっている。

 一方のB判として最大のB0判の面積は1.5平方メートルである。B判の方は「美濃紙」という江戸時代に使われていた公用紙に由来していて、美濃紙の縦横比は白銀比にかなり近かった。ちなみに、現在のA判とB判の規格は、1929年に日本標準規格として定められたものが使われている。

 日本の人気キャラクターにも白銀比が使われているものは多い。ざっとあげるだけでも、ドラえもん、アンパンマン、キティちゃん、となりのトトロ、ちびまる子ちゃんなどは縦と横の比がほぼ白銀比になっている。

 他にも、仏像や生け花にもバランスが良いとされるものの多くに白銀比を見つけることができる。さらに、「5・7・5」の俳句にも白銀比の近似値(約5:7)が含まれているのは、偶然ではないと考える人もいる。

 自然界に多く存在し、西欧では特に人気の高い黄金比と、質素と堅実を好む日本人が無駄を省き、可愛さを表現するためにも好んで使う白銀比。そのどちらにも、はっきりとは値がわからない(小数点以下に不規則な数字が永遠に続く)√が使われているのはなんとも興味深い。