天才数学者たちの知性の煌めき、絵画や音楽などの背景にある芸術性、AIやビッグデータを支える有用性…。とても美しくて、あまりにも深遠で、ものすごく役に立つ学問である数学の魅力を、身近な話題を導入に、語りかけるような文章、丁寧な説明で解き明かす数学エッセイ『とてつもない数学』が6月4日に発刊。発売4日で1万部の大増刷となっている。
教育系YouTuberヨビノリたくみ氏から「色々な角度から『数学の美しさ』を実感できる一冊!!」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。連載のバックナンバーはこちらから。
カラスと「時間差見本合わせ課題」
19世紀にドイツで活躍した数学者のクロネッカー(1823~1891)は「整数は神が作ったものだが、他のすべての数は人間が作ったものである」と語った。
実際、1、2、3、……とものを数えることは、人間だけでなく、他の動物もできるという研究結果が次々と発表されている。
ドイツのテュービンゲン大学における研究では、カラスが、いわゆる「時間差見本合わせ課題」をクリアできることが明らかになった。「時間差見本合わせ課題」とは、パソコンの画面で2枚の画像を数秒間隔の時間差で見せて、2枚目の画像に書かれた点の数が1枚目と同じ場合、画面をつつくとエサがもらえるというものである。
この課題をカラスに繰り返し行わせると、そのうちに課題の趣旨を理解し、点の数が同じ場合にだけ画面をつつくようになったらしい。
さらに、オーストラリアのクイーンズランド大学からは、ハチも数を数えられるという報告がある。トンネルの中にいくつかの線を引き、たとえばその3番目に花の蜜を置いておいて、ハチに何度かこのトンネルを通過させたあと、蜜は無く、線だけが描かれたトンネルを通過させると、ハチは3番目の線の付近を集中的にウロウロするのだとか。
ただし、これでは入り口からの距離で判断しているという可能性もあるので、線と線の間隔を変えたトンネルも通過させたところ、やはり3番目の線の付近で同じ挙動を見せるというから面白い。
他にもたとえば、ホトトギスはウグイスの巣に自分の卵をこっそり入れておいて、ウグイスに卵を温めさせる(これを托卵という)が、その際、自分の卵と同じ数だけウグイスの卵を除ける。
これに対し、たとえば分数は「1をn等分したときの1つを1/nとする」というような「共通の概念」がなければ理解することができない。小数や0も共通概念の導入によって初めて成立し得る数だ。