メディアには「女のカラダ」に関する都市伝説があふれています。
「あたためは生理痛にも妊活にも効く」「仕事をしすぎるとオス化する」「恋愛やセックスをしていないと女性ホルモンが枯渇する」……。これらはどれも、医学的には根拠のない情報。でも、それに振り回されて、不調のスパイラルに陥ったり、落ち込んだりする女性は少なくありません。
「女体」についての第一人者、産婦人科医の宋美玄先生が、いまの医学でわかっている「ほんとうのこと」だけをベースに20代~40代女性の、身体や性の悩みに答えた新刊「医者が教える女体大全」の中から、一部を抜粋して紹介いたします。

「生理はつらいもの」「我慢するのが当たり前」では、断じてない!Photo: Adobe Stock

約7割が「月経前や最中に何らかの影響がある」と回答

 みなさんは生理中をどんなふうに感じて、過ごしていますか? 生理痛はあるのが当たり前、なかには下腹部の痛みを「陣痛の練習」だと信じてその痛みにじっと耐えている人もいるようです。ほかにも腰痛、頭痛、吐き気、下痢、貧血、お腹の張り、気分の落ち込み、疲労感、脱力感、食欲不振、イライラ……さまざまな不調に悩む人は少なくありません。

「月のうち何日もこんなにつらいなんて、女性って損ですね」

「生理はつらいもの」「我慢するのが当たり前」では、断じてない!

 これが毎月くり返されるのですから、そうため息をつく気持ちは私もよくわかります。図を見てもわかるとおり、生理がある20~39歳の女性のうち約7割が「月経開始前や月経期間中に何らかの影響を受ける」と答えています。これは私のクリニックに来る女性たちを見ていても、リアルな数字だと思います。日本では「生理はつらい・面倒」なのがマジョリティ、という感覚はみなさんにもあるのではないでしょうか。それなのに仕事も家事も休めない……という状況は問題です。

「でも、みんな生理がつらいんだったら、そっちが”普通”なんじゃない?」

 と思われるかもしれませんね。私は、こんなにたくさんの女性がつらさを受け入れつづけていること自体が”普通”ではないと考えています。

 生理にともなう痛みや不調をまとめて「月経困難症」といいます。生理痛や、生理のときの経血が多すぎる「過多月経」が代表的な症状ですが、これらはすべて治療の対象になります。病気のサインである可能性があるからですが、つらさによってQOL(Quality of Life=生活の質)は確実に下がりますから、これ自体を病気ととらえ、早めに対処したほうがいいという考えです。みなさんが「損だ」と思っているその感覚は間違っていませんし、私たちはこれ以上損をしなくていいのです。

生理は「女の証」「デトックス」「陣痛の練習」じゃない!

 婦人科系疾患を抱える働く女性による年間の医療費支出と生産性損失の合計が6兆円を超えるという試算があります(*1)。女性が社会に損失をもたらしているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。つらい生理を何もせず耐えているうちに病気が重症化すればそれだけ医療費がかさみますし、具合が悪いまま仕事をすれば誰だってパフォーマンスは低下するということです。

 これは女性が働く現場にとってもデメリットでしかありません。生産性を上げるために生理を軽くすべきという意味ではなく、女性が生涯働くことが当たり前になっている現在、それを阻む月経困難症という要素があり、さらにはその要素をなくせる手段があるのですから、それは社会をあげて取り組むべき課題のひとつです。

 そこでまずは、多くの女性たちが共有している「生理はつらいのが普通」という思い込みをなんとかしたい! と私は考えています。

 生理を「女の証」「デトックス」、痛みを「陣痛の練習」というように、”何か意味のあること”だと思いたい人は少なくないようです。そう信じることで、つらい数日を乗り越えようとしているのですね。女の証と思うのは個人の自由ですが、悪いものを出しているわけではないのでデトックスではありません。まして生理痛と陣痛はまったく無関係で、それまで生理痛で悩んだ経験がほとんどない人が、陣痛もとても軽く無事に元気な赤ちゃんを出産した例は数えきれないほどあります。脅すわけではないですが、その逆もしょっちゅうあります。

 生理のたびに下腹部が痛いのは子宮内膜症という病気のサインかもしれないのです。この病気が原因で不妊になることはめずらしくありません。

 陣痛の練習のつもりで生理痛を我慢していたら、赤ちゃんができにくくなっていた……そんな悲しい思いを、私は誰にもしてほしくないです。

 痛みを我慢することに意味はまったくありませんし、つらいなら生理そのものを止めていいのです。排卵と月経はそもそも生殖(妊娠)のためにあるものです。ですから、妊娠を望んでいないときには身体にとって特にプラスになるものではありません。詳しくは「医者が教える女体大全」でも説明していますので、参考にしてください。

(*1 「働く女性の健康増進白書」2018年 より)