この男の英知こそ、まさに人生のこの重大な局面でわたしが聞きたかったことだった。おそらく、わたしは弟子だったのだ。で、ようやく学べる場所までたどりついたので、師があらわれたのだろう。いままで人生で経験したことは、ひとつとしてむだではなかったのかもしれない。すべて、運命づけられていたのかもしれない――準備がととのったこの状態にたどりつくための地ならしだったのかもしれない。

 人事部長のエヴァン――とてもスピリチュアルな人間――は、なにかが予定どおりにいかないとき、“宇宙ではすべて申し分ない”という表現をよく使う。仕事や私生活でどんな展開になっても、たとえ苦しい状況でも、“すべて申し分ない”というのだ。わたしは彼が心からいっているという気がしていた。

 おそらく、偶然のできごとというものはなくて、人生で起きる複雑なことは、われわれがどんなにがんばっても理解できない、微妙ながら完璧な知性によるものなのだろう。

「失礼ですが、あなたは何者なんですか?」どんなかたちであれ、深遠な英知をさずけてくれているこの風変わりながら忘れがたい男を怒らせたくないと願いつつ、わたしは勇気をふりしぼってきいた。

「わたしの名前はジュリアン・マントル、きみの案内役をつとめにきたんだ。きみが運命を見つけるのを手伝いに」という、わかりやすい答えが返ってきた。……ジュリアン・マントルはわたしの父の親友だった。財産と弁護士の職を捨て、ヒマラヤの高地で修道僧から深遠な哲学を授けられ、ゆたかで有意義な人生をきずく基礎となる最高の普遍的真理を手に入れて、それらを自分の世界観と結びつけ、その過程で内面のやすらぎを見つけた。

 今度は彼が、わたしが本当の自分を見つけるためのコーチをしてくれるという。わたしはよろこんで彼の弟子になり、翌日の早朝から正式なレッスンを受けることを約束した。

[この連載は毎週木曜日に掲載します] 


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