政権支持率の維持と引き換えに
将来世代に思い負担を背負わせる

 さらに何より問題なのは、このように世論の支持を得るために次々と打ち出した政策によって、「国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の国内総生産(GDP)対比の赤字を20年度までに黒字化する」という、財政健全化の国際公約がまったく達成できなかったことだ。安倍政権下で、普通国債残高は増加の一途をたどり、19年度末で897兆円に達してしまった。

 問題を深刻にしているのが、コロナ禍という未曽有の危機だ。安倍政権は緊急経済対策を打ち出したが、「一律10万円の現金給付」という大衆迎合政策に踏み込んでしまったことで、経済財政運営のタガが完全に外れてしまった(第244回・P6)。

 今後、コロナ禍が長期化すれば、さらなる経済対策を打ち出さなければならなくなる。財政赤字は空前の規模に拡大する懸念があり、その重い負担を背負うことになるのは若者や将来世代ということになる。

安倍政権のレガシーとされる
安全保障政策を評価しない理由

 このように、安倍政権の支持率を高く維持するためにいろいろな手を使った。そして、「悲願」である安全保障政策の推進・憲法改正の実現に向かった。

 安倍政権の功績として、安全保障政策の整備を進めたことが挙げられることが多い。確かに、「特定秘密保護法(13年)」(第72回)、「安全保障法制(15年)」(第115回)、「テロ等準備罪(共謀罪)法(17年)」(第160回)と、次々と安全保障政策を成立・実現してきた。

 しかし、筆者はこれを高く評価する気はない。なぜなら、軍事的・経済的な急拡大を続け、米国から「覇権国家」の座を奪おうとするかのような中国(第180回)(第236回)など、安全保障環境の悪化を考えれば誰が首相であっても安全保障政策の整備を行ったはずだからだ。仮に、安倍首相が「悪夢」と呼ぶ「民主党政権」が継続していても同じだっただろう。

 筆者はむしろ、安倍首相の「狭量さ」が、安全保障政策を問題の多いものにしてしまったと考える。というのも、安倍首相に野党が感情的に反発して与野党の話し合いがまったく成立しなくなってしまったからだ(第111回)。それは、安保法制の審議のころからであった。

 当時の野党・民主党には前原誠司氏や長島昭久氏など、保守的な思想信条を持つ議員が実は少なくなかった。民主党政権期に外交や安全保障政策に取り組んだ議員もいた(第35回・P4)。

 彼らは、安保法制のすべてが「違憲」であるとは考えず、法案の中には「合憲」のものもあると考えていた。そして、さまざまな問題点を修正しながら、国際情勢の変化に対応する安全保障政策を実現していくべきだというのが「本音」だった。

 しかし安倍首相は、民主党の保守派と協議の場を設け、彼らの考えを取り入れて妥協しながら安保法制の審議を進めることはなかった。むしろ、首相は彼らを上から目線で相手にしないという態度をとった。これが、それまで党派は違っても安倍首相を同じ保守だと思っていた前原氏らを、心から激怒させることになった。

 その後、野党は安倍政権に対する態度を硬化させて「何でも反対」の姿勢を貫くようになった。この連載では、野党の審議拒否を厳しく批判してきた(第251回)。それは、審議拒否の結果、数多くの問題を残したまま、法案が成立してしまうことが続いたからだ。