習氏のメンツを重んじたのか

「アジアの旺盛なインフラ需要に、日本と中国が協力して応えていく」とする安倍首相の音頭で、高速鉄道など第三国のインフラ受注をめぐり、熾烈な競争を繰り返していた日本と中国は、手に手を携えるようになる。

 日本は第三国市場での協力を通して、「一帯一路」の参加に意欲を見せ、18年10月に北京で開催された「第1回日中第三国市場協力フォーラム」には、両国首脳や財界トップを含む約1500名が集まった。両国の政府関係機関、企業、経済団体の間で、金融、インフラ、物流、ITなどの分野で52件の協力覚書が締結された。

 2回目となるフォーラムは、まさに習氏の訪日が予定されていた今年4月に東京で開催されることになっていた。しかし、コロナ禍で潮目は変わってしまった。修復困難というレベルにまで米中関係がこじれた今、官民挙げて第三国で日中が協力するという構図は描きにくくなってきた。

 日本と中国の大手メーカー間で行われる、複数の大型案件取引をまとめてきた中国籍の男性は、「日本はこれまで習近平のメンツを立てるために無理難題をのんできたが、日本の官民が足並みをそろえた対中ビジネスも、今後はやりにくくなるだろう」と語る。

 トランプ大統領が再選しようとしまいと、米国が本気で行う中国の抑え込みが新たな冷戦構造を生み出す気配が強くなる中で、イデオロギーの違いを乗り越えて互いに手を携える「ウィンウィンの経済関係維持」が困難になることは予想の範囲内だ。

 ちなみに、“メンツを立てる対中ビジネス”の一例には、2017年に河北省に設置された国家級新区「雄安新区」への進出がある。北京の一部の行政機能が移転される同新区では、最新テクノロジーを駆使したスマートシティ構想が進んでいるが、習氏肝いりの雄安新区を成功に導くために、中国は複数社の日本の大手有名企業に白羽の矢を立て、協力依頼を行ったという経緯がある。

「引き際」を自国の政治家と比較?

 中国の一般市民までが安倍首相を持ち上げる理由がもう一つあるという。日中関係に詳しい私大教授はこう語る。

「安倍さんは外交にはたけていたが、危機管理が不得意でした。やることなすことが裏目に出て、最後は支持率が落ちてほころびも見えました。引き際が肝心だと思ったのか、突然の幕引き会見を行いました。実はこの『引き際』の良さが、中国市民の称賛につながった部分もあるのです」

 潔く表舞台から去る安倍首相に見る「引き際の美学」。中国ではあからさまな発言はご法度だけに、頭の良い中国人たちは、そこに“わが国のリーダー”の姿を重ねていたようである。