困難に立ち向かうリーダーに
必要な「3つの知性」
クラウゼヴィッツは、不確実性に満ちた戦争という行為を指導する者に求められる特性として以下の2つを挙げている。
一つは、次第に度合いを増す暗黒の中にいながら、光明の火を燃やしつづけ、真相看破に努力する知性であり、一つは、このかすかな光明を頼りとして歩もうとする勇気である。
(73章、引用はすべてカール・フォン・クラウゼヴィッツ著、淡徳三郎訳、『戦争論』、徳間書店、1965年。適宜、編集部でかなを漢字に、漢字をかなに改めた。また、地色は編集部)
まずは冷静さ、知性について考えてみよう。リーダーに求められる能力は、関係する状況をできるだけ本質的に素早く把握し、コントロールできる範囲を定め、意思決定する能力である。リーダーが、コロナという難局において視野に入れるべき範囲は大きく、全力をもってしても、必要な全体を把握することはできないだろう。さらに、状況が絶えず変わっていくので、正確な知識を得ることは、きわめて困難である。
行動をより高い見地から指導する一般的原則と見解は、明瞭で深奥な洞察の結果としてのみ生まれうるものであり、それが、個々の具体的な場合についての意見のよりどころとなる。(86章)
それでも、状況を把握しなければ適切な意思決定につながらない。これらは多方面にわたる情報収集活動に自分の経験を加味し、さらには専門家の学問的知識によって補強される。想像力を駆使して今起こっていることを認識し、概念化、モデル化して把握する必要がある。
あらゆる現象が混沌たる姿を示しているなかでは、深い、明瞭な洞察はきわめて難であって、その変更はやむをえないことであり、許されるべきことでもある。そこでは、いっさいの行動が暗中模索によって行わねばならぬ。(86章)
カオスのような状況では、確実な事実の観察による概念化、モデル化とそれに伴う意思決定は、たいへん難しく、いろんな面でたくさんの間違いをおかすだろう。そうした不確実性が高い状況下における意思決定の修正はやむを得ないことである、とクラウゼヴィッツは言う。
批判する人はたくさんいるだろうが、無視しておけばよい。間違えれば、再度、分析しなおし、改める。何度でもそれを繰り返すのである。「朝令暮改」といって、リーダーの命令が短い期間にすぐに変更されてあてにならないことを揶揄(やゆ)する表現がある。しかし、不確実性の高い状況下においては「朝令暮改」もむしろアリだ。というか「朝令暮改」を恐れ、間違った過去の判断軸にこだわる頑固さこそ愚の極みである。こんな状況だから、一旦実施した施策が不適切であってもいたしかたないことだ。その場合に、やはり不適切だったと認めて、新しい方針を出せるかどうかが重要だ。