もちろん、伝統を守る、地域社会への貢献、たった一人のお客さまへの感謝など私利私欲と関係のない動機であってもよい。あるいは、皆さんの組織の中には、共通に思い起こすことのできる使命感のようなものはないだろうか。きっとどんな組織にもあるはずだ。言葉がなければ、誇大妄想からでもよいから、リーダーは紡ぎ出してほしい。とにかく感情を燃え上がらせる動機がなければ、組織も個人も活動を維持できない。

 そして、その希望の光を長期間にわたり継続しなければいけない。難局に強いリーダーとは、その感情が強力で、かつそれを継続できる人のことでもある。外に湧き出てくるか、内に潜むかは両方あるが、深い熱情を絶やさずに持ち、人を鼓舞し続ける人物こそ、困難に満ちた難局にもっとも頼りになる。そばにいるだけで熱い思いが感じられ、こちらにもやる気と勇気が自然と湧いてくるような人こそが難局に立ち向かうリーダーである。

 以上、この難局に際し、組織の将来を託しうるのは、反省的で全体を概括する冷静な知性と、他方、たとえ名誉欲や虚栄心からであっても熱い感情を持ちメンバーに働き掛け続ける勇気の両方を併せ持つ人材である。

 現在、このような資質を持ち合わせないと自覚する人がリーダーの地位にあるなら、すぐに適切な人にバトンタッチすべきだろう。これからの難局に立ち向かうには、「知と情との特別な素質」が必要であり、平時のリーダーに求められる素質とはまったく異なるのである。生半可な気持ちでリーダーをやるには厳しすぎる時代がやってきているのだ。それは数万人の巨大企業であろうと、100年続く老舗企業であろうと、数人の中小企業であろうと、国家であろうと同じことである。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)