「CMの女王」という呪縛
冗談はさておき。
しかし、そういう目で見ると、実際に似ている表現が多いのに気づくものです。
言葉だけでなく、企画の手法もそうです。
最近で言うと、漫画やアニメのキャラクターを俳優が演じる実写版のようなCMや、若いタレントが少し前のエモいヒット曲を歌うCMなど、手法的には同じものを見たりしないでしょうか。
誤解のないよう記しておきますと、これは何かを揶揄してるわけでも、ましてや悪い例というわけではありません。
似ている、というより、結果として似てくる。
ブームのようなものが生まれやすいと思うのです。
似てくるという意味では、出演者もそうです。
「CMの女王」という言葉がありますよね。
この一年間に最もCMに出演したタレントは十数社と契約した誰それ、と人気のバロメーターとして語られるアレです。
確かにその数字は人気の証拠、誰も知らないタレントさんより人気の人を起用したい。露出の多いタレントさんを起用することでメジャー感が獲得できます。
しかし、初登場した時に感じる新鮮さは、後になればなるほど薄れてきますよね。
新鮮さだけでなく、タレントにせよ手法にせよ後になればなるほど似ていないものにするための余計な工夫が必要になり、企画を考えることが難しくなる。
それでもわざわざ既に十数社に出演しているそのタレントさんにこだわる理由は何なのでしょう。
理由は十数社と契約している事実そのもので、人気という引力に引っ張られているのではないでしょうか。
やはり、言葉にせよ企画にせよタレントにせよ、過去に見た何かの引力に引っ張られ、それに似てくることで無意識に安心しているように思うのです。
クリエイティブは自由、答えは一つではない。
正解なんてない、自分らしく考えればいい。
すると、正解がないから、自由に、前例に倣ってしまう。
もし自分に、気をつけさえすれば直せる点があるとしたら、そこかもしれないと思ったわけです。
1968年、広島県生まれ。東京大学農学部卒。博報堂クリエイティブディレクター/CMプラナー。
主な作品に、日本コカ・コーラ「ファンタ」=ACC賞グランプリ2005受賞、U H A味覚糖「さけるグミ」=ACC賞グランプリ・カンヌライオンズフィルム部門シルバー・TCC賞グランプリ2018受賞、森永製菓「ハイチュウ」、永谷園「Jリーグカレー」、コンデナストジャパン「GQ Japan」、エムティーアイ「ルナルナ」、福島県「TOKIOは言うぞ」など。コミカルで独自の世界観を持つ作風で知られる。宣伝会議コピーライター養成講座の講師も務める。著書に『面白いって何なんすか!?問題』(ダイヤモンド社)。