多焦点レンズの手術をするには、特別な資格がいるらしい。最初に受診したクリニックの医師は持っていなかった資格を2件目の医師は持っており、40代そこそこの若さながら、白内障手術以外の疾患の手術にもかなり自信があるようだった。日帰りでできる手術とはいえ、決して誰でもできる簡単な手術ではないということだろう。

「手術は予定通り受けられますか」

 初回の手術の前日、クリニックから確認の電話が入った。直前になって「やっぱり怖いからやめます」という患者は少なからずいるという。タダシさんも怖くてドキドキしていたので、恐ろしいのは自分だけではないことがわかり、ほっとした。

 手術は点眼薬による局所麻酔で行う。わずか数ミリ切開した個所から特別な器具を入れて濁った水晶体を超音波で砕いて吸出し、眼内レンズを挿入する。麻酔開始から30分、手術自体は10分もかからなかっただろう。その間、医師は、手順をその都度説明し、「大丈夫ですよ」「上手くいっていますよ」と声かけをしながら、手術を進めてくれた。痛みはなかったが、何度か目玉を押される感じがあり、手術用のライトの光が眼内レンズを挿入した瞬間にまん丸に見えたのが興味深かった。出血は一切ない。手術したほうの目にガーゼの眼帯を当てがい、医療用テープで固定して終了。別室のリクライニングの椅子で休み、迎えに来ていた妻と一緒に帰宅した。

 その夜は、入浴は禁止。抗生剤に加え、我慢できないほどではないが痛みはあったので鎮痛剤を飲み、休んだ。驚いたのは、わずかにずれた眼帯の隙間から見えた景色のクリアーさだった。家族の顔もテレビ画面も、かつて見たことがないほど鮮明で、くっきりと見えた。

予想外の出血で動揺
しかし手術は大成功だった

 翌週は、残りの目の手術を受けた。2度目なのでリラックスしていると、突如、術中の視界が真っ赤に染まった。

「あぁ、出血しちゃいましたね。どうしたんだろう」

 医師の言葉にドキッとした。前回、あれほど饒舌だったのに、今回は口数が少ない。手術はだいぶ早く終了したが、大丈夫なんだろうか。