アップル、サムスンが
競争の構図そのものをぶち壊す

 新型iPhoneの話題が世間を騒がせる中、ニコン関係者はかつて結んだある“密約”に思いを馳せていた。2000年代半ばにマイクロソフトと結んだ相互不可侵の紳士協定のことだ。

 両社は、お互いの特許についてやりとりをするうちに、「現業の中核事業を侵食しない」、つまり、世界中でニコンはOS事業に、マイクロソフトはカメラ事業に参入しないことを誓った。

 デジタル化はあらゆるジャンルの垣根を崩す。いずれ、両社がお互いの市場を侵食するかもしれない。その危険性をいち早く察知し、手を結んだのだ。

 ただし、デジタル時代の覇者の変遷は驚くほど早い。今、カメラ業界を脅かしているのは、当時の巨人、マイクロソフトではなく、アップルとサムスン電子だ。先のニコン関係者は「アップルがカメラに進出してくることが心配」と漏らす。

 何しろ、アップルが高性能のカメラをつくるのは簡単な時代になった。日本のカメラメーカーが台湾の製造受託メーカーに製造を委託し続けた結果、彼らの技術力が飛躍的に上がったからだ。今や、低価格機のみならず、ミラーレス一眼カメラという中級機の受託にまで乗り出そうとしている。彼らに製造を委託すれば済んでしまう。

 わざわざカメラに参入しないとしても、すでに、iPhoneなどのスマートフォンに内蔵されたカメラは、コンパクトデジタルカメラに迫る画質を実現している。

 そのスマホ市場では日本メーカーは見る影もなく、アップルとサムスンが世界シェアの上位に位置している。多くの人にとって日常的には、スマホでの撮影で事足りるし、すぐにインターネットに写真を掲載できる利便性のほうが勝る。「カメラがスマホに食われているのは、紛れもない事実」(ソニー幹部)なのだ。