首相時代は憲法改正・安全保障は抑制的で、保守派の嫌う女性の社会進出、働き方改革などの社会民主的な政策を推進する現実的な路線をとってきた。だが、首相を辞めて野に放たれることで、本来の保守的な持論をSNSなどで奔放に主張し始めるのではないか。実際、首相就任前にSNSで保守的な持論を書いていた過去がある。しかし、安倍前首相が「豹変」したらどうなるか。これまでしっかりつかんでいた中道層の「サイレントマジョリティー」の支持を失い(第218回)、国際的にも、前首相に集まっていた外交への高い評価が雲散霧消してしまうだろう。くれぐれも今後の言動には気を付けてほしいと思う。

安倍政権よりも人材の幅が狭い菅政権

 菅政権の組閣・党役員人事で気になったのは、起用する人材の「幅の狭さ」と、菅首相の「お友達」の起用が目立つことである。もちろん、安倍政権も「お友達内閣」とやゆされていたが、それなりに多彩であり、かつて「政策新人類」と呼ばれたような、能力の高さが評価された人も少なくなかった。

 一方、菅首相の「お友達」は、非常に幅の狭い範囲で選ばれている。総務会長に起用された佐藤勉氏、選挙対策委員長の山口泰明氏は、菅首相と初当選が同期で「気心の知れた仲」だという。

 また、菅首相の「2人の師匠」の息子たちが起用された。首相がかつて秘書を務めた小此木彦三郎元通産相の三男である小此木八郎氏を国家公安委員長として再入閣させ、首相が政界入りした後に師匠と仰いだ梶山静六元官房長官の息子・梶山弘志氏を経産相に留任させている。

 菅首相は政官財に幅広い人脈を築いてきたとされるが、今回の「お友達起用」の幅の狭さを見ると、首相が本当に信頼できる人は、実は少ないのではないかと不安になる。あるいは、官房長官の強力な権力を振るって築いた人脈であって、自身の人間性や見識などで得た人望ではないという自覚があるのではないか。今は首相を持ち上げていても、いつか寝首をかかれるという疑いが払しょくできない。だから、能力は高いが、首相と距離があるような人材の起用は、できなかったのではないだろうか。これは、「非世襲」で権力の頂点まで上り詰めた、菅首相の限界を示しているのかもしれない。

河野氏は力量発揮しづらいポジションへ…

 菅首相は、「世の中には数多くの当たり前でないことが残っている。それを見逃さない」と発言している。具体的には、「縦割り行政の打破」「規制緩和の断行」を挙げた。だが、組閣・党役員人事からは、菅首相は「改革」に本気で取り組む気はなく、安倍政権時代の「やったふり」を踏襲するつもりだ。

 まず、河野太郎氏の行革担当大臣起用だ。外相、防衛相などを歴任してきた河野氏の「発信力」「実行力」には定評がある(第164回)。だが、行革担当相は、河野氏が力量を発揮しづらいポジションだ。

 歴代の行革担当相でまともに機能した人はいない。行革担当相は「内閣府特命担当大臣」の1つである。要は、内閣府の中に部屋を1つもらって仕事をする。各省庁の大臣のような、大組織を率いるのではなく、各省庁の間を調整して改革、規制緩和を進めるためのリソースもスタッフ機能もない。結局、「行革」をメディアにアピールするしかできないのだ。

 菅首相が本気で行革・規制改革に取り組むならば、「森友学園問題」を抱えて、首相自身が「再発防止を徹底する」と語っている財務省、コロナ禍で縦割り行政の弊害が批判される厚労省、巨大官庁である総務省の大臣に、河野氏を起用すべきだ。そして、実際の政策決定の現場で、改革・規制緩和を断行させるべきである。

 しかし、財務相は前述の通り麻生氏の再任、総務相は二階派の武田良太国家公安委員長の横滑り、厚労相は「厚労族」の重鎮・田村憲久氏の起用だ。政策の継続性という点で安定感があることは認めるが、改革・規制改革は進めないと宣言しているに等しい。

 このようなガチガチの布陣を前にして河野氏にできることは、次期首相候補としての得点稼ぎのための、「やったふり」の国民向けの発信だけだ。また、河野氏も自らの役割をよく理解して実行するだろう。

官房長官になる加藤氏の役割は、これまで通り「支持率調整」

 最後に、加藤勝信厚労相の官房長官起用である。この連載では、安倍政権で閣僚・党役員を歴任した加藤氏を何度も酷評してきた。その理由は、世論や支持率の維持を強く意識し、優先された政策決定を行う安倍政権を象徴する存在だったからだ。