オバマ政権の強烈なリーダーシップの下、アメリカが産官学をあげて、次世代電池などエコカー技術の開発を加速させている。侮りは禁物だ。産官学一体のイノベーション力とリスクマネーの供給力に優れるアメリカは、イソップ寓話にたとえるならば、「カメ」、企業の個力頼みの「ウサギ」の日本を追い抜く可能性もある。このアメリカの動きに強い危機感を持っているのが、経産省所管の独立行政法人NEDOだ。同機構のキーパーソンへのインタビューを核に、アメリカの戦略を検証し、日本の取るべき道を探った。(ジャーナリスト 桃田健史)

2009年5月19日、ホワイトハウスで自動車燃費規制改正法を発表したオバマ米大統領。2007年にブッシュ政権が打ち出した、2020年までに乗用車とLight Truck(ピックアップトラックとSUV)の平均燃費を35.5MPG(約15km/リッター)にするとの目標を、2016年に4年前倒しで実施するとした。この会見には、アーノルド・シュワルツェネッガー カリフォルニア州知事、アラン・ムラリー フォード・モーター社長も参加した。Photo(c) AP Images

 日本は次世代環境車(エコカー)の分野でアメリカに一気に巻き返され、そして最終的には負けてしまうのか。そうした「一種の恐怖心」が日本の一部で囁かれるほど、最近アメリカの「強気の姿勢」がエスカレートしている。

 2009年5月19日、米ワシントンDC・ホワイトハウス。オバマ大統領が自動車燃費規制改正法を発表した。2007年にブッシュ政権が打ち出した、2020年までに乗用車とLight Truck(ピックアップトラックとSUV)の平均燃費を35.5MPG(約15km/リッター)にするとの目標を、2016年に4年前倒しで実施するとした。この会見には、アーノルド・シュワルツネッガー カリフォルニア州知事、アラン・ムラリー フォード・モーター社長も参加。アメリカ国内外に対して「強いアメリカ」、「急速に回復するアメリカ」、そして「Buy America」の姿勢を強調した。

 こうした「強気の姿勢」は、同じくワシントンDCで開催されていたDOE(Department of Energy/米エネルギー省)の年次総会に連動したものだと言える。DOEでは、アメリカ主導によるEVのインフラ(充電コネクターとプロトコル/通信ソフトウエア)を強く打ち出したのだ。

 筆者はその前週、北欧ノルウェーのStavanger市にいた。EVS24(EVと燃料電池車の世界シンポジューム/コンベンションの第24回大会)を取材しており、そこでもアメリカ(=DOE)の「強気の姿勢」の“凄み”に驚嘆した。

 オバマ大統領の「強気の姿勢」は、大統領就任前の2008年12月「2015年までに北米でPHEV(プラグインハイブリッド車)を100万台走らせる」という目標値設定から本格化した。そして2009年2月にサインした「American Recovery and Reinvestment Act/ 通称Recovery Act」では、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、EVなど次世代バッテリー(二次電池)関連の技術開発として20億ドル(1ドル100円換算で2000億円)の予算をあっさり承認してしまった。

 一連のアメリカの動きを見てきた筆者としては、「アメリカは次世代自動車技術開発向けの投資バブル期に突入した」と言いたい。米政府が笛を吹き、その周りを、瀕死のGMとクライスラー、そしてフォード、さらにサプライヤー(部品メーカー)、電池メーカー、次世代車ベンチャー企業、投資家が取り巻いている。官民学が一丸となって「次世代自動車技術の大ドンデン返し作戦」を繰り広げようとしているのだ。

 こうしたアメリカの動きに対して、日本企業の見方は総じて懐疑的だ。ここ数ヶ月、筆者が取材した、日系自動車メーカーやバッテリー(リチウムイオン二次電池など)メーカーの関係者の間では「日本の技術水準にアメリカがそう簡単に追いつけるワケがない」という声が大半だった。

 だが、アメリカの「強気の姿勢」に対して「強い危機感」を抱いている組織が、日本にある。その名を、NEDOという。自動車業界で開発に携わる人間にとっては聞き覚えがあるだろうが、一般的にはメジャーな存在ではないかもしれない。

 正式名称は「独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構」。経済産業省所管の「日本の未来技術研究の中枢」である。

 そのNEDOに今年3月1日付けで、燃料電池・水素技術開発部・蓄電技術開発室が誕生した。現在総勢7名の彼らこそ、アメリカの「強気の姿勢」に真っ向勝負を挑む「日本の要」である。