300億円規模のファンドを運用する、若手NO.1ベンチャーキャピタリスト・佐俣アンリ。新刊『僕は君の「熱」に投資しよう』(以下、『熱投』)は、起業家をはじめ、「何かやってみたい」とくすぶっている人を焚きつけ、熱くし続けている。
そんな『熱投』の類書を挙げるとすれば……、と対談相手に選んだのはYJキャピタル代表取締役社長で『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』(以下、『STARTUP』)を今年5月に上梓した堀新一郎氏。「起業に関わるすべての人におすすめ」と起業家から絶賛を受ける『STARTUP』をひっさげ、堀氏が佐俣アンリと語るのは、投資家が求める「熱」について。
数々のベンチャー企業を成功に導いてきた投資家ふたりが求める「熱」とは何なのか??(構成/森旭彦)

起業は熱だけで始められるし、
投資家は起業家の熱しか見ていない

──まさに『熱投』のタイトルから始めたいと思うのですが、そもそも投資家(ベンチャーキャピタリスト)は、起業家が資金調達を求めて目の前に現れたときに、どんな質問をして、投資を決断するのでしょう?

堀新一郎(ほり・しんいちろう)
YJキャピタル株式会社代表取締役
慶應義塾大学(SFC)卒業。Slerを経て、(株)ドリームインキュベータにて経営コンサルティング及び投資活動に従事。2007年より5年半、ベトナムに駐在。ベトナム法人立ち上げ後、ベトナム現地企業向けファンド業務に携わる。2013年よりヤフー(株)に入社しM&A業務に従事。2013年7月よりYJキャピタルへ参画。2015年1月COO就任、2016年11月より現職。日本を中心に総額465億円のファンドを運用。ファンド累計出資社数は100社超。東南アジアでは250百万ドルのEV Growth FundをEast VenturesとSinarmasと共同で運用。Code Republicアドバイザー、ソフトバンク(株)のグループ内新規事業開発・投資会社であるSBイノベンチャー(株)取締役、EV Growth Fundのパートナー兼務。著書に『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』(琴坂将広、井上大智との共著)がある。

堀新一郎(以下、堀) 案外、難しいことは聞かないですよ。普通の面接です。簡単にピッチ(事業アイデアの説明)してもらったり、一般的な会話です。僕が観察してるのはリアクションですね。
 短い面接の時間でも、案外いろんなことが分かります。たとえば起業家が、僕の質問の意味がよく分からなかったとする。すると、なんとなく知っているフリをする人もいる一方で、その場ですぐにスマホを取り出して調べだす人もいる。実は受け答えの内容よりも、そうしたリアクションを観察しています。
 要するに最初の面接で多くの投資家が見ていることは「この人と一緒に仕事したいか」ということだと思うんですよね。アンリさんが『熱投』で書いてるように、時間に遅れたり、約束を守らない人とは一緒に仕事したくないじゃないですか。そこは僕も読んでて「同じだな」と思いました。

佐俣アンリ(以下、佐俣) まさにそう。いや、もちろん長い付き合いのなかでときどき遅れるとかなら分かるのですけど、資金調達のような大事な意思決定の一発目で遅れる人って、僕はけっこうダウトだと思ってます。そこで遅れるってことは、君はもう、一生遅れるよねって思ってしまう。

 そもそも、面接のときに聞くビジネスモデルについては、投資家はだいたい成功しないと思って聞いています。投資してからさまざまなトラブルが発生するし、そのときなぜか僕に対してキレられたりもします(笑)。それでも「彼・彼女ならしかたがないな」と思って支援したくなる起業家じゃないと。僕らも投資家である前に人間なので。

 そういうことを最初の10~20分の会話で感じ取ってるんでしょうかね。別にチェック項目をつけてるわけではないけど。

 ステージがシリーズA(事業が本格稼働して顧客が増え始める段階)とかになってくると、目の前にいる社長が明日、交通事故で死んだときのことを考えて話を聞いてたりします。「社長がいなくなっても僕はこの会社を責任持ってグロースできるか、グロースさせたいか?」とね。投資するってことはお金を入れるだけではなくて、そのビジネスの当事者になるってことですからね。

──圧倒的な成長をする起業家に共通している要素って何でしょう?

佐俣アンリ(さまた・あんり)
ベンチャーキャピタリスト
1984年生まれ。慶應義塾大学卒業後、カバン持ちとして飛び込んだEast Venturesを経て、2012年に27歳でベンチャーキャピタル「ANRI」を設立し、代表パートナーに就任。主にインターネットとディープテック領域の約120社に投資している。VCの頂点を目指し、シードファンドとして日本最大となる300億円のファンドを運営する。著書『僕は君の「熱」に投資しよう』。ツイッターは@Anrit

佐俣 シード期(起業前、事業スタート直前の段階)はとにかく「熱心に働く」ということですね。

 まさに熱が本物かが試されるのがシード期ですからね。うまくいくまで働き続けるしかないです。そして、ほとんどがうまくいかない状況をどう打開するか。

佐俣 最近、堀江裕介さん(dely株式会社代表取締役。レシピ動画サービス「クラシル」運営)と話すんですけど、彼の力の源泉は勤勉であることだと感じます。

 起業家にはコアスキルがあって、たとえば中川綾太郎(株式会社newn代表、ペロリ創業者)だと「仮説検証力」。アプリの見た目のインターフェースがどうとかではなくて、数字のキレだけですべてをジャッジしている。そのシビアさがビジネスのダイナミクスを生んでいるんです。

 一方で堀江さんのコアスキルは「勤勉さ」だなと。たとえば僕と会って何か疑問が湧いたとするじゃないですか。すると「僕、ここ全然わかってなかったんですよね。勉強しました」といって次に会うと僕より詳しくなっている。すでに相当成功した起業家なのに、すごいなと思います。

 昔は全然そんなタイプじゃなかったんですが。

佐俣 ここでは言えない荒々しさも含め、そうですよね(笑)。つまり堀江さんは「どうしようもない熱」ありきで起業家になった人なんです。その熱をパワーに変え、事業に変えていった。その事業のなかで勤勉に学んで成長していくストーリーを『STARTUP』を読んで、なるほど起業家って面白いなと思いました。

『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』
(堀 新一郎/琴坂将広/井上大智、NewsPicksパブリッシング)

 シード期の堀江さんのコアスキルをあえて言うなら、「早く成功したい」というせっかちさでしょうね。挑戦でも、だらだら挑戦しない。くだらないプライドを捨ててがむしゃらにやっていく。

 たとえばの話ですが、「データ分析ツールの運用の仕方がわからないので教えてもらえませんか? 誰か良い人いませんか?」と相談してくる起業家がたまにいます。他の起業家仲間に自分がわかってないと思われるのが恥ずかしいと思って投資家に聞いているとしたら、まさにくだらないプライドの塊です。気軽に聞ける起業家仲間がいないのなら、どんどん自分の力で切り拓いていかないと。こうしたくだらないプライドなんて、みなぎる熱の前では生じないはずです。

佐俣 僕が『STARTUP』を読んでニヤニヤしちゃったのは、ロジカルに起業論をまとめている一方で、そうした堀江愛が隠しきれないところでした。

 僕のポートフォリオで学生起業家に初めて投資したのが堀江さんでしたからね。本にはケーススタディとして3回登場しちゃってますから。

佐俣 そうそうそう。登場回数が多い(笑)。