株主価値の向上は経営者であれば意識すべき当然の責務ではありますが、株主・投資家とのコミュニケーションを軽視すると、実際にはどのような影響が生じるのでしょうか。
マーケット環境が良いとき悪いときの違いも考慮しつつ、会社にとっての投資家コミュニケーションの意義について考えます。
投資家コミュニケーションを軽視すると資金調達の難易度が上がる
朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):投資家コミュニケーションの重要性について、以前こちらのポストでもお話しましたが、今回は、スタートアップ経営者にとってなぜ投資家コミュニケーションが重要なのかについて、「軽視したらどんなデメリットがあるのか」について考えてみたいと思います。
「株主の負託を受けている経営者が、株主に対して会社の実態を正確に開示することは当然の責務である」というのが優等生的な回答なのだとは思います。ただ今回は、建前論は一旦取っ払ったうえで、「何が実際に困るのか?」という点から考えたいと思います。
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):結論から言うと、軽視した際のデメリットは、資金調達の難易度が上がるということだと思います。具体的には、条件面が不利になったり、最悪の場合資金調達ができなかったり、といったことが起こりえるということです。
現在、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行の影響の中で、資金調達ができそうな会社と、非常に苦労している会社に二極化している印象があります。
当然、影響を受けやすい業界かどうかでも差が生じると思いますが、投資家コミュニケーションの巧拙も相応に影響していることでしょう。
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):上場企業・未上場企業、両方に共通する点ですが、得てして投資家は、会社側が過去にどういうコミュニケーションを行ってきたか、非常によく覚えています。
例えば、都度の投資家コミュニケーションで一過性の説明をしているのか、それとも一貫した説明をしているのか、といった過去のやりとりから得た会社に対する信頼度を踏まえて、次のラウンドを検討します。
もし、過去のやりとりが雑だったり、いい加減なものだったりすると、いざ調達したいというときに、投資家からの信頼が積み上がっておらず、投資を見送られてしまうといったことが起きる可能性があります。
朝倉:スタートアップの場合、既存投資家から資金を調達できなくても新規に外部の投資家から資金を調達すればいいじゃないかという考えもあるでしょうが、新たに入ってくる投資家も、既存投資家とスタートアップの関係性がどうなっているのかは当然気にします。新たなラウンドで既存投資家が全くフォローしていない場合だと、何かが起こっているのではと感じると思います。
村上:そうですね。投資家コミュニケーションによって資金調達に差が出ると述べましたが、マクロ環境によって差の出方は異なると思います。マーケット環境が良いときは、投資家コミュニケーションに細心の注意を払ったか否かの差は出づらい。
上場企業でも同様のことが言えると思います。当たり前ですが、上場企業はマーケット環境が良いとき調達はしやすい。極論を言うと、経営がダメな会社や、投資家コミュニケーションが不得手な会社でも、マーケットが良いと、投資家からお金が集まりやすいんですよね。そのため、マーケットが良い時は結果に差が出づらい。
一方で、2020年5月現在のようにマーケット環境が悪いときは、基本的に投資家は投資に消極的です。そうした状況下においては、こういったコミュニケーションや過去のトラックレコード(過去の収益実績や運用成績)の差が選別理由として上位に入ってくるため、大きく差が生じやすいと思います。
この10年ほどはスタートアップのエコシステムはブル(強気)マーケットだったため、この差が見えづらかったですが、それはマーケットが良かったからで、今後1~2年は過去の積み重ねの差が表れる局面なのではないでしょうか。