ただ、韓国の国内経済状況を見ると、革新派(左派)の文氏が労働組合などに痛みを強いる構造改革を進めることは難しい。今後、韓国国内の経済状況は一段と悪化する恐れがある。世論は文氏への不満をため込む可能性が高い。そうした不満の矛先をかわすためにも、文政権の朝鮮半島統一、反日の政策二枚看板を強調することになるとみられる。わが国は冷静に同国の動きに注目して、安易に譲歩することなく対応することが必要だ。

いかにも唐突な
文氏の終戦宣言提案の不可解

 国連演説にて文大統領は、朝鮮半島の平和のためには北朝鮮との終戦宣言が必要と主張した。注目すべきは、同氏が非核化などの条件を付けず、ほとんど無条件な終戦宣言を提案したことだ。

 韓国は安全保障上のパートナーである米国への事前の根回しなく、世界に向かって北朝鮮の非核化を伴わない終戦宣言を呼びかけたことになる。少なくとも、米国は休戦協定の当事者だ。その米国と韓国の関係はかなりぎくしゃくしたものになったようだ。北朝鮮の核保有を事実上、容認したまま終戦宣言を目指すという文大統領に関して、米国の安全保障の専門家らは「米国の考えと逆行している」とかなり厳しい見方だ。

 文氏の発言の背景には、同氏を取り巻く厳しい韓国内世論があるとみられる。新型コロナウイルスの感染拡大による内外需の落ち込みによって、韓国国内では“L字型”の景気停滞への懸念が高まっている。また、国民の間では不動産価格の高騰への不満も根強い。それに加えて、法相のスキャンダル発覚や北朝鮮による韓国人男性の射殺も支持率の低迷要因だ。

 経済面に焦点を当てると、文氏の政策の下で経済が自律的に回復する展開は想定しづらい。それが世論の不満を高めるファクターになっている。特に、景気の低迷によって労働争議が激化する恐れがあることは軽視できない。足元、韓国GMでは労働組合がストライキ権を行使する構えを示している。その状況に関して、米GMは「労使対立が収束しない場合、韓国事業から撤退する」との意向を示した。労働争議が激化すれば、海外投資家の資金引き上げが増えるなど、経済と金融市場の不安定感は高まる。

 金融市場の混乱を防ぐため、文政権は株式市場における空売りの禁止措置を延長した。足許、世界的に低金利環境とITプラットフォーマーの成長期待から株価は高値圏で推移している。空売りを行う投資家の存在は、資産価格の過熱感などを防ぐために重要だ。そうした理論的に正当と考えられる点を許容できないほど、文氏は追い込まれているとみられる。