中国の歴史の特徴

 儒教は、もともと儒学といった。以下、儒学という。儒学はなぜ、政治を重視するのか。それは、中国の地政学と関係がある。

 中国は広大な農業地帯。世界でもっとも豊かな場所だ。ただしまっ平らで、防御がしにくい。北方には騎馬民族がいて、侵入してくる。そこで、強力な政権が必要だった。

 中国の農民のコンセンサスは、つぎの通りである。

 1 統一政権ができて、騎馬民族を撃退してほしい
 2 それには強力な正規軍を組織し、必要なら万里の長城も築いてほしい
 3 そのためのコスト(税金、労役、軍務)を、負担してもよい

 中国には繰り返し、統一政権ができる。それは、農民の総意に支えられている。政権が農民の利益になっている限り、農民は少しぐらい政府が横暴でも我慢する。しかし、政府が自分たちのことだけを考え農民を無視するなら、容赦なくその政府をほおり出し、新しい政権を樹てる。中国の歴史は、その繰り返しである。

 政治が重要なのは、農民の生活が重要だから。農民の安全と平和と繁栄を実現するのが政治の役割だから、である。政治とは、人間が人間を支配すること。なぜ支配するかと言えば、秩序をつくり出すため。人びとがばらばらではできない仕事をするためだ。

 人間を支配するには、人間が生きている必要がある。人間が死んだらどうなるかは、政治には関係ない。中国の人びとが現実的で、死についてあまり興味がないようにみえるのはこのためである。

(本原稿は『死の講義』からの抜粋です)