インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
自分の褒め方を身につけるには?
読書猿さんの、勉強法についてのブログ記事をいつも参考にさせていただいております。
その中に、「自分をほめよう」という項目がありますが、元来自己否定的な思考に陥りがちな自分にはそれがなかなか出来ずにいます。
甘やかすでない自分の褒め方を身につけるための書籍などあれば紹介していただければ幸いです。
自責が強い人に欠けているのは「自己肯定感」ではありません
[読書猿の解答]
褒めることは、性格の範疇ではなく、習慣とそのための技術の問題、つまり行動の問題です。
まず自己否定的な思考に割く認知資源をごく一部を、自分の行動を記録することに振り分けることをおすすめします。
1 身につけたいことや改善したいこと、今はまだあまりできていないが習慣にしたいことなどあれば、それを目標(ターゲット)にします。
2 目標(ターゲット)の行動やこれに関係する行動を実行したら、その回数を数え、1日の合計を記録していきます。
たとえば読書を習慣づけたいなら、本を(たとえ1ページ、1行でも)読んだ回数を、そしてこれに関した本屋に行った回数やネットで誰かの書評を見た回数なども数えると良いです。
最初は毎日記録すること自体難しいでしょう。記録をするのを忘れたり、面倒がって省略した日があっても、かまわずこだわらず、記録をつづけます。
記録はスマホやパソコンでやってもいいですが、紙のノートを使うのも捨てたものではありません。というのは、無事記録できたら、花丸をかいたり「よくできました」のスタンプを押したりできるからです。
自分に対する褒め言葉が浮かばない褒めビギナーには、こういう定形の褒め道具(ツール)がおすすめです。馬鹿らしいと思うかもしれませんが、自己否定的な思考に認知資源を割くことに比べたらずっとマシです(なにしろ苦労せずに短時間でできて安上がりです)。そしてヒトは自分で思うよりずっと儀礼的な生き物であり、こうした儀礼的な手法は馬鹿にならない効果があります。
以下は蛇足ですが、上記を少し抽象的に言い直すと、褒めるのが苦手な人に欠けているのは、「自己肯定感」なんてものではなく、なによりもまず観察です。褒めることとは、発見することなのです。
この世界に泡のように生まれてはつかの間にかき消える、ささやかだけど肯定すべきものに、心を向け言葉ですくい取ることは、それに気付き見逃さないことから始まります。