土屋 私は2012年にワークマンに入社しました。元商社マンで浅く広くいろいろな仕事をしてきました。売上100億円、利益10億円のビジネスなら、すぐにつくれる自信があります。

入山 現在の商社マンにはあまりいないタイプですね。自由に縦横無尽に動かれた「超探索タイプ」だったわけですね。

「両利きの経営」は<br />どうすれば実現できるのか<br />……ワークマンの仕掛け人と<br />早大入山教授の白熱対談1入山章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所でおもに自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。Strategic Management Journal, Journal of International Business Studiesなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。著書にベストセラーとなっている『世界標準の経営理論』などがある。

土屋 はい。その一方でワークマンは40年間、作業服だけを脇目も振らずにやってきました。徹底した標準化と合理化で成功してきましたが、成長の限界も見えていました。

入山 企業が収益を上げるには、業績の上がっている分野の知を「深化」させるのがいい。

その一方で「知の探索」は手間やコストがかかるわりに、収益に結びつくかどうかが不確実であることが多い。自然、企業は「知の探索」を怠りがちになる。そのため知の範囲が狭まり、結果として企業の中長期的なイノベーションが停滞します。

土屋 そこに私の出番があったのだと思います。高機能で低価格な製品を「見せ方」を変えて別の客層に売ろうと考えました。それが1店舗でも成功すれば、その後は標準化して合理的に運営する能力をワークマンは備えています。

入山 イノベーションの源泉の一つは「知と知の組合せ」です。自社の既存のビジネスモデルという「知」に、他社が別事業で使っていた手法などの「別の知」を組み合わせることで、新しいビジネスモデルや製品・サービスを生み出していく。

「知の深化」を継続する一方で「知の探索」を怠らない組織体制・ルールづくりが求められるのが、世界のイノベーション研究者の間でコンセンサスになりつつある考えです。

「知の探索」型の土屋さんと「知の深化」を継続してきたワークマンは最高の組合せ。それがワークマンプラスという形で結実したのですね。

この続きはまた次回聞かせてください。

「両利きの経営」は<br />どうすれば実現できるのか<br />……ワークマンの仕掛け人と<br />早大入山教授の白熱対談1
土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。