コロナ禍によりリモートワークが進み、今、雑談の重要性が見直されています。雑談を通して、思わぬ形で新しいアイデアが生まれ、メンバー間のコミュニケーションが円滑になることも多々あります。
ITベンチャーの代表を10年以上務め、現在は老舗金融企業のCTOとして企業改革を実行。『その仕事、全部やめてみよう』の著者・小野和俊さんは「定例会議の半分は雑談をしている」と言います。
もちろん、ただ雑談しているのではなく、その奥には「今という時代のコミュニケーション」や「個人の強みを活用する人材登用」など確かな考えが見え隠れします。
会議で雑談をする意味や効果はどこにあるのか?
今、職場に必要なコミュニケーションとは何なのか?
「生産性向上、イノベーション創出に効く雑談のコツ」を教えてもらいました。
(取材・構成イイダテツヤ、撮影疋田千里)

「来週、マグロを釣りにいきます」雑談から生まれたイノベーション

「今週の予定確認」なんて、やらなくていい

――『その仕事、全部やめてみよう』には「遊び人」「遊び心」といった“遊び”を主軸にした話がたくさん出てきます。仕事のおける“遊び”の大切さをどのように感じていますか?

小野 遊びは本当に大事だと思っていて、よくチームのメンバーとも「定例会議では雑談をしよう」と話しています。

 週次で1時間の定例会議があるんですが、30分以上雑談がなかったら「今日は雑談が少なくてイマイチだったね」という感想が出ますね。

――本当に、仕事とまったく関係ない雑談をしているんですか?

小野 そうです。「来週、マグロを釣りに行きます」って言う人がいて、「えっ、マグロってどうやって釣るの?」なんて話しています(笑)

 そもそも、会議でよくやる「今週の予定の確認」とか「先週のアップデート」とか「君、何をやってたの」みたいな話は、文字情報を読めばわかるじゃないですか。

 そんなことならわざわざ集まる必要はありません。

 むしろ雑談をして、思わぬところで新しいアイデアが生まれたり、いろんな人が自由に話をできたほうがいいと思っているんです。

 会議って、いわゆる「声の大きい人」が発言しやすくて、そうでない人は発言しにくい雰囲気がありますよね。立場が低い人は意見を言いにくいとか。そういう心理的なハードルってあるんです。

 でも「来週、マグロを釣りに行くんです」「昨日、ゲームをやり過ぎて眠いです」なんて話をしてると、誰でも話しやすくなりますよね。

 そうやって「仕事と関係ない話」をしていると、急に「ちょっと仕事の話なんですけど」と言い出す人が出てくる。そして「関係ない」「役に立たない」と思っていた話が、突然、仕事に繋がることがよくあるんです。

「来週、マグロを釣りにいきます」雑談から生まれたイノベーション小野和俊(おの・かずとし)
クレディセゾン常務執行役員CTO
1976年生まれ。小学4年生からプログラミングを開始。1999年、大学卒業後、サン・マイクロシステムズ株式会社に入社。研修後、米国本社にてJavaやXMLでの開発を経験する。2000年にベンチャー企業である株式会社アプレッソの代表取締役に就任。エンジェル投資家から7億円の出資を得て、データ連携ソフト「DataSpider」を開発し、SOFTICより年間最優秀ソフトウェア賞を受賞する。2004年、ITを駆使した独創的なアイデア・技術の育成を目的とした経済産業省のとり組み、「未踏ソフトウェア創造事業」にて「Galapagos」の共同開発者となる。2008年より3年間、九州大学大学院「高度ICTリーダーシップ特論」の非常勤講師を務める。2013年、「DataSpider」の代理店であり、データ連携ソフトを自社に持ちたいと考えていたセゾン情報システムズから資本業務提携の提案を受け、合意する。2015年にセゾン情報システムズの取締役 CTOに就任。当初はベンチャー企業と歴史ある日本企業の文化の違いに戸惑うも、両者のよさを共存させ、互いの長所がもう一方の欠点を補う「バイモーダル戦略」により企業改革を実現。2019年にクレディセゾン取締役CTOとなり、2020年3月より現職。「誰のための仕事かわからない、無駄な仕事」を「誰のどんな喜びに寄与するのかがわかる、意味のある仕事」に転換することをモットーにデジタル改革にとり組んでいる。著書に『その仕事、全部やめてみよう』がある。

――雑談が活きた事例を教えてくれませんか?

小野 セゾンカードに「セゾンのお月玉」という現金がプレゼントされる企画があるんですが、そのアプリの背景はいつも同じだったんです。

 あるとき、雑談の延長で若い女子社員が「あの背景、いつも同じで飽きちゃいましたよ」と言い出したんです。「そうだね、そうだよね」なんて雑談の雰囲気から、「じゃあ、クリスマスはサンタにしてみる?」「バレンタインはチョコにして」と話がどんどん広がっていきました。

 最終的には当選した人に郵送する現金書留の封筒も「絵柄を合わせよう」となりました。たとえば、2月に当選した人は「板チョコデザインの封筒」で届くことになったんです。

 TwitterやインスタグラムなどのSNSで「#セゾンのお月玉」というハッシュタグで検索していただくとわかるのですが、季節ごとの絵柄の封筒に花やぬいぐるみを添えて「インスタ映え」する写真を投稿してくださっている当選者の方がたくさんいます。

 ずっと同じ封筒だったとしたら、こうした投稿はもっと少なかったはずです。こういう話って、真面目に会議してても絶対ダメで、雑談をする中で生まれてくるのだと思います。