もっともシンプルな論理思考の入門書『わけるとつなぐ -これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義-』が発売されました。この本は、難解な「考える力をつける本」に挫折したり、「論理思考とはフレームワークの使い方を身につけることだ」と思っていた人のための、2時間で読めるストーリー形式の入門書です。
本記事では、著者の深沢真太郎氏が、本書の鍵になる「2つの行為」の意味を伝えます。(構成:編集部/今野良介)
「考える」の正体
前回の記事『数学で学ぶのは「計算力」ではなく「思考力」である。』で書いたように、私は「考える」を数学から学びました。何を学んだのかを、具体的にお伝えしていきます。
まず、ある問いから始めます。
【Q1:「考える」とは何をすることか?】
あなたは、この問いにどう答えますか。私の知るもっとも多い答えがこれです。
【A:答えを出すこと】
その通りだと思います。
そこで、次の問いです。
【Q2:「答えを出す」とは何をすることか?】
多くの方がここで言葉に詰まります。「答えを出す」とは考えることの目的であり、具体的にどんな行為をするのかを表現していません。
私が学生やビジネスパーソン、アスリートの皆様の教育現場に立っていて問題視しているのは、目的は理解しているが、具体的にどういう行為をするのかを知らないということです。これでは、目的である「答えを出す」もうまくいかないように思います。
【Q2】に対する私の答えは、「わける」と「つなぐ」という2つの行為をすること。それだけです。これが、私がお伝えする「考える」のすべてです。
これだけでは抽象的なので、具体例を挙げます。
「答えを出すプロセス」を丸裸にする
前回の記事の内容を振り返ります。読み直していただかなくても大丈夫です。
前回、ある数学の問題を使って「作業」と「思考」の違いを解説しました。そこで私は、次の問題を通じて「思考」とは何かを説明しました。
【問題2】
深沢さんの現在の基本給は25万円です。残業代は1時間あたり3000円です。深沢さんは、月収が40万円欲しいと望んでいます。あなたが深沢さんの立場なら、どうしますか?
このような問題に対して、私たちはどのようにして答えを出すか。前回の内容と重複しますが、確認します。
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【STEP1】
まずこの問題の構造を捉える。具体的には月収という対象の構造です。
月収=基本給+残業代
=基本給+1時間あたり残業代×残業時間
↓(次に)
【STEP2】
つまり月収をあげる方法は3つあることを認識する。
(1) 基本給を上げる
(2) 1時間あたり残業代を上げる
(3) 残業時間を増やす
↓(次に)
【STEP3】
具体的な数値を使い、どれが現実的かを考えて答えを出す。
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大きく3ステップに分かれ、STEP1からSTEP3の順に進めることで答えにたどり着きます。「考える」が得意な人は、これを当たり前のように、無意識に行なっているでしょう。
しかし、得意な人が当たり前のようにやっていることを、言語化し体系的に説明できなければ、その方法論は「得意な人以外」が身につけることはできません。
上記で「3つのSTEPに分けた」ことは、「わける」という行為をしていることに他なりません。
そしてSTEP1、STEP2、STEP3という順序をつけてつなぎ合わせ、スタートからゴールまでのルート(筋道)を作ります。つまり、上記における「→」の部分。これが「つなぐ」という行為です。
あくまで一例ですが、これが私なりの「考える」という行為を体系化したものです。どんな場面でも、「わける」と「つなぐ」をすることで、正解のない問いに答えが出せるようになる、というのが私の主張です。
新規事業、やる? やらない?
別の例も考えてみます。
たとえば、ある企業で新規事業を立ち上げるか否かを検討しているとします。まさに正解のない問いに対して、考えて答えを出す場面です。
さて、この問題に答えを出すためにも、まず「わける」をします。
私も、あなたも、かつての算数や数学の授業で「場合分け」というものを学びました。こんなふうに。
<場合分けの例1>
・Aが偶数のとき
・Aが奇数のとき
<場合分けの例2>
・X>0のとき
・X=0のとき
・X<0のとき
考えられるケースに分けてから、答えを出す方法です。
この「場合分け」も、「わける」の1つです。先ほどの新規事業の例であれば、このような場合分けをすることができます。
・新規事業にチャレンジする
・新規事業は断念し既存事業に注力する
新規事業にチャンレジしたときに期待できる収益は? リスクは?
逆に既存事業に注力したときに期待できる収益は? リスクは?
これらを数値化したうえで、総合的に判断することになるでしょう。次のように。
【STEP1】
2つのケースに場合分けする
↓(次に)
【STEP2】
それぞれの期待収益やリスクを整理し、意思決定に必要な情報を揃える
↓(次に)
【STEP3】
どれが現実的かを考えて答えを出す。
当たり前のように思えるこのような場面での「考える」も、「わける」と「つなぐ」で成り立っているのです。
「数学を使う」ではなく「数学的に考える」
私たちはかつて数学を通じて、「わける」と「つなぐ」という行為を訓練していました。一部の専門職を除けば、日常生活や仕事で数学そのものを活用することは少ないでしょう。
しかし、今回ご紹介したような「数学的な行為」は、すべての人が日常生活や仕事で使っています。なぜなら、「正解のない問いに答えを出す必要のない人」はいないからです。
ところで、みなさんはこれまでに思考法の書籍を読んだり、セミナーを受講したご経験はありますか。ある方は、きっとその時、たくさんの「フレームワーク」を学んだのではないでしょうか。
たとえば、「PDCAサイクル」。
たとえば、「SWOT分析」。
たとえば、「ロジックツリー」。
実は、これらもすべて「わける」と「つなぐ」だけで成り立っています。「わける」と「つなぐ」さえ身につけていれば、難解でたくさんある「フレームワーク」を暗記する必要はないのです。
次回は、それを具体的に説明していきます。