これが長期契約での業務であればともかく、単発の講演などを依頼されて引き受けたような場合でも、各企業で異なる様式の書類提出を毎度やり取りしなければなりません。このケースでも企業の側はそれほど痛みはなく、「国の決まりだから仕方がない」「業務委託先だから引き受けてくれるだろう」と思考停止して依頼しているに過ぎないのですが、受ける側は手間が大変かかり、痛みを全て引き受ける形になります。

 今後、ITでやり取りが完結するようになればよいのですが、マイナンバーのやり取りも受け手の体験を依頼する側が考慮していないことで、社会全体の効率が悪くなっている例のひとつです。

 私が「受け手の体験を考えない」コミュニケーションとして、PPAP以外に最近気になっているのは、オンライン会議でプレゼンテーションをする際、資料を全画面のスライドショーではなく編集画面のまま画面共有するパターンです。送信者は大きな画面で操作をしているのかもしれませんが、出先などで、小さな画面でミーティングに参加せざるを得ない人はプレゼン資料が小さく見にくくなってしまいます。

 これも正当な理由があればよいのです。プレゼン用途で資料を表示するのではなく、参加者全員で議論をしながら資料を共同で作っていくための話し合いの場としてオンライン会議が実施されているのなら、編集画面で問題ないのです。

 しかし「スライドショー表示のやり方が分からないから」「以前やってみたけれどもうまくできなかったから」というのでは言い訳でしかありません。それなら事前にどうやれば操作できるのかを確認したり、勉強したりすればいいだけの話です。相手のことを考えていない自分だけの理由、送り手側の怠慢で、自分は困っていないかもしれないですが、見ている側はストレスがたまります。

 こうしたケースでも、まずは相手の体験を良くすることを考えるべきです。それは相手の体験を良くすることが、コミュニケーションをスムーズにすることにつながり、最終的には情報を共有する対象者全体の効率化につながるからです。社会全体の効率化を考えれば、自分の都合で作業や不自由を相手に押しつけるのではなく、受け手の体験も含めて考える必要があるのです。

(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)