中国、台湾、韓国では
脱ハンコと効率アップは無関係

 戦前、日本が統治していた影響で印鑑登録制度が残る台湾では、すでに電子署名法により、印鑑と手書きの電子サインの両立が可能になっているので、「脱ハンコで効率アップだ!」などという議論はされてない。同じく日本の印鑑登録制度を引きずる韓国でも、脱ハンコの動きが進められているが、それは印鑑の偽造が横行したという不正行為対策という意味合いが強く、「効率アップ」は目的としていない。

 なぜこれらの国では、日本のように「ハンコ=ムダの象徴」という位置づけにならないのかというと、「ハンコによる身分証明」という慣習がないからだ。

 韓国と台湾には、確かに日本統治のなごりで印鑑登録制度はあるが、それとは別に身分証明の制度がある。台湾は顔写真付きの国民身分証が発行され、今後はこれに運転免許やスマホのデータを連動したデジタルIDになっていくという。韓国でも出生した段階で住民登録番号が付与されるので、これが本人確認に用いられる。

 中国も同様で、国民1人1人に固有の番号が記載された身分証明書が存在して、公的サービスを受けたり、鉄道のチケットを購入したりする際に、切符の偽造・転売対策でこれを提示する。

 さて、ここまでお話をすれば、もうおわかりいただけたことだろう。中国、台湾、韓国にはハンコ文化があっても、日本のように「効率」の問題が取り沙汰されないのは、日本以外の国ではほぼ当たり前に普及している国民識別番号制度によって、「本人確認」という作業がシステム化されているからなのだ。

 それは言い換えれば、政府がハンコを目の敵にして「脱ハンコ」「ハンコ廃止」などと声高に叫ばなくとも、他国で当たり前になっている「国民識別番号制度」が普及するだけで、日本社会でいろいろと言われている問題は、かなり改善される可能性が高いということだ。

 少なくとも、コロナの給付金を払うのに3ヵ月かかりましたとか、年金の記録が消えてしまいましたというような、台湾などのデジタル行政の進む国から憐れみの目で見られるような今の状況は、大きく変わるはずだ。

 が、ご承知のように、ハンコ文化の迫害は進んでも、日本で「国民識別番号制度」が普及する気配はない。社会保障や税金の分野で個人を特定するマイナンバーカードでさえ、9月時点で普及率は全国で2割弱にとどまっている。