悪い規制緩和、悪い規制強化
しかし、実際に起こっていることは、金融機関はますます「Too Big to Fail」になり、それを規制する側の各国の規制・監督当局は権限をより強くしていくということだった。政府の規制・監督当局は、監督するべき民間企業があってはじめて存在意義がある。つまり、規制・監督当局としても、大きすぎてつぶせない金融機関を温存し、その上で自分たちの権限を強めて、より上の立場から監視するほうが美味しいのだ。
本来、規制緩和とは、新規参入の障壁を下げ、競争を増やすことにより、サービスの価格を下げてサービスの質を向上させるために行なうものである。この意味で、2007年まで続いた金融バブルのなかで行なわれたさまざまな国際金融業界の規制緩和は、新規参入を増やすというよりも、既存の巨大金融機関が好き勝手できるようにする、という意味で行なわれた。そして既存のプレイヤーが強くなる一方で、複雑怪奇な法規制で守られる金融業は、新規参入が極めて困難である。これは、典型的な悪い規制緩和だ。
そして、現在進行中の規制強化は、既存の体制を固定化するとともに、各国の規制・監督当局の権限を肥大化させている。こちらも、典型的な悪い規制強化である。
特定の金融機関と、各国の財務省、中央銀行、監督当局からなる、国際金融業界のインナーサークルは、社会主義的な色彩を強く帯びた形で、依然として世界のなかに居座ろうとしているのだ。
宗旨替えしたグリーンスパン
金融危機でさまざまな問題を引き起こした巨大金融コングロマリットや、次々と生まれる複雑な金融商品のマーケットの成長に、誰よりも力を貸してきたアラン・グリーンスパン元FRB議長ですら、宗旨替えをして次のように語った。
「大きすぎてつぶせないなら、それは大きすぎるのだ。
(中略)
少なくとも我々は、暗黙の政府保証という隠れた補助金が巨大銀行に競争優位を与えていることに気がつくべきである。この見えない補助金のおかげで、大手は中小を競争で打ち負かすことができる。この状況を是正しない限り、時代から取り残された瀕死の金融機関を抱え込み、アメリカ社会の貯蓄を無駄に垂れ流すことになるだろう。
大手銀行の自己資本比率を引き上げるとか、課税を強化するといった措置だけで十分だとは思わない。大手銀行はそれぐらいの負担増は吸収し、しのいでいくだろう。そしていつまでも国民の預金を利用し続けるだろう。
(中略)
だから私はもっと大胆な提案をしたい。それは、銀行の分割である。1911年にスタンダード石油を分割したら、何が起こったか。分割後の各事業は、分割前より価値が高まった。世界が必要としているのは、これである」
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