世界同時金融危機からユーロ危機に至る最近のマクロ経済の重要なトピックに、激変する金融業界の“赤裸々な内幕”を織り交ぜて解説する『外資系金融の終わり』が発売直後から大きな反響を呼んでいる。本連載ではそのメインテーマともいえる外資系金融機関の「報酬」と「組織」、そして金融システムの変化について、藤沢数希氏に解説してもらう。

ボルカー・ルールとバーゼルⅢ

 アメリカの不動産バブル崩壊からはじまった一連の世界同時金融危機は、未だに収束していない。この間に、政治的には極めて不人気な金融機関への公的資金注入などが次々と実施された。各国政府や規制・監督当局はじくじたる思いだろう。

 そして金融機関を規制する立場の政府高官は、おそらく自分たちが一連の金融危機に責任があるとは考えていない。彼らは金融バブルがはじける前も、公務員としてウォール・ストリートやシティの報酬とは無縁の暮らしをしていた。ウォール・ストリートやシティの連中が起こした金融危機の責任をどう感じろというのだ。本当は、バブルをここまで大きくした低金利政策や、金融業界からのロビー活動によりいびつな規制緩和をしたことが、今回の金融危機の大きな原因になっているのだが。

 当然のこととして、欧米の政府高官や政治家は、報酬に目が眩んだ金融機関による過剰なリスクテイクが金融危機の原因であり、放っておけば何をしでかすかわからない強欲な金融機関を厳しく規制しなければいけない、と考えた。そして、大きく分けてふたつの国際的な金融規制がはじまっている。ボルカー・ルールとバーゼルⅢである。

 元FRB議長のポール・ボルカーが主導したボルカー・ルールは、銀行が本来の貸出業務以外でリスクテイクするのを基本的に禁止しようという規制改革だ。本書でくわしく説明してきたが、最近のグローバルな金融機関の収益源はヘッジファンドと変わらなかった。社内のトレーディング・デスクが大きなポジションを取って相場に賭けているのだ。