世界同時金融危機からユーロ危機に至る最近のマクロ経済の重要なトピックに、激変する金融業界の“赤裸々な内幕”を織り交ぜて解説する『外資系金融の終わり』が発売直後から大きな反響を呼んでいる。本連載ではそのメインテーマともいえる外資系金融機関の「報酬」と「組織」、そして金融システムの変化について、藤沢数希氏に解説してもらう。
株式調査部の不思議な役割
投資銀行の株式部には株式調査部という部署がある。英語でエクイティ・リサーチと呼ばれるこの部署は、株式投資をする人はよくご存知のように、企業に「買い推奨」とか「売り推奨」のようなレーティングをつけている。こういった企業分析をする人をアナリストと呼ぶ。アナリストは産業セクターごとに分かれていて、たとえば自動車セクターのアナリストは、トヨタ、本田、日産などの自動車株の分析をしており、自動車業界の隅の隅まで精通していることになっている。
投資銀行の顧客は金融商品の売買に対して手数料を払うのだが、もし売買の仲介だけなら、ミスがない、仕事がはやい、トレーディングがうまい(ソニーを100億円買うにしても、ヘタくそだとマーケットにインパクトを与えて高く買ってしまう)なども重要だが、これらはそれほど差別化できるものでもないので、手数料は安ければ安いほどいいということになってしまう。そこで、投資銀行は企業の分析レポートを書いて、顧客である投資家に情報提供することにより、高い手数料を正当化しようとしているのだ。
具体的にいうと、株の売買手数料は、DMAだと1ベーシス・ポイント以下だが、リサーチの対価としての執行なら10ベーシス・ポイントといった具合だ。
しかし、この株式調査部という部署は、矛盾に満ち溢れているところなのだ。株式調査部は、マーケット部門に所属するので、顧客は投資家ということになる。ところが同じ投資銀行の投資銀行部門では、企業の株式や社債の発行などの業務を行なっていて、ここでは顧客は投資家ではなく、アナリストの調査対象である企業となる。そうすると、株式調査部が手厳しいレポートを書くと、大変感じ悪い。だから、アナリストが手数料をたくさん払ってくれる上客の企業に対して「売り推奨」など出そうものなら、投資銀行の上層部からさまざまな圧力を受けることになるし、顧客企業からクレームが来たりする。
つまり、投資銀行部門がソニーの経営者に、こんな企業買収しませんか、とか毎日営業しているのに、同じ投資銀行のアナリストが「ソニーのビジネスモデルは終わった、こんなクソ株はやく売ってしまえ」とはなかなか言えないだろうことは、サラリーマン諸氏なら理解できるだろう。