もっともシンプルな論理思考の入門書わけるとつなぐ -これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義-』が発売されました。この本は、難解な「考える力をつける本」に挫折したり、「論理思考とはフレームワークの使い方を身につけることだ」と思っていた人のための、2時間で読めるストーリー形式の入門書です。
本連載第4回は、著者の深沢真太郎氏が、ビジネスの現場にいる多くの人が抱える「ある課題」について。(構成:編集部/今野良介)

「知っているのに使えない」問題

唐突ですが、水泳の話です。

あなたは背泳ぎができますか。できる方はすばらしい。

では、できない方に質問です。背泳ぎの泳ぎ方はご存じでしょうか?

おそらくほぼ100%「YES」の答えが返ってくることでしょう。

背面を水中に向けて水に浮きながら、足はいわゆるバタ足をし、腕はクロールと逆回転の動きをすることで泳ぐ。これが背泳ぎです。

わたしが言いたいことは、背泳ぎの「泳ぎ方」は知っているのに、実際は泳ぐことができない、あるいは泳ぐことが苦手である。そんなことが当然のように起こる、ということです。

これと非常に似た構造をしているビジネスの課題があります。思考が得意な人やコンサルタントが使う、いわゆる「フレームワーク」と呼ばれるもの。その名称は知っているのに、多くの人は実際に使えないという課題です。

「ロジックツリー、もちろん知ってるよ」
「SWOT分析? ああ、なんかマーケティングのセミナーで聞いたことある」
「ピラミッドストラクチャー? 会社の研修で聞いたな」

このように、論理思考や戦略の話では、英字やカタカナで表現されるフレームワークと呼ばれるものが多数登場します。フレームワークとは枠組みのこと。何かを考えるにあたって、「この枠組みで考えることで、果実が手にできますよ」とコンサルタントが推奨してくる、あれです。

私はずっと疑問でした。なぜこのような教え方をするのだろうと。

なぜなら、フレームワークとは、誰かの「考えた方法」に後付けで名前をつけ、「それをそのままやりなさい」と教えているだけだからです。

スープパスタはどうやって食べればいいの?

「こういう時はSWOT分析をしなさい」
「こんな場面ではピラミッドストラクチャーを作りなさい」

このような教え方をすると、教えられた人に何が起こるか。

「じゃあ、それ以外の場面ではどんなフレームワークを使えばいいのか教えてください」

という思考になるのです。道具の使い方しか教えられなかった人間は、道具がなければ何もできません。これは、教育的な観点で見ると、とてつもなく恐ろしいことです。

たとえば親が子どもに「カレーはスプーンで食べなさい」「サラダはフォークとで食べるのよ」と教えたとします。するとこの子どもは、人生で初めてスープパスタを目の前にしたとき、「これはどうやって食べれば正解なの?」と尋ねるかもしれません。私は、これをとても怖いことだと思うのです。

なぜなら、この子どもは、これから見たことのないグルメに出会ったとき、毎回必ず「これはどうやって食べるのか正解なのかを教えろ。教えてくれなきゃこの料理を食べられないじゃないか」という人間になるからです。

「そんなの自分で考えろよ」「いや、極端だろ。そんなのちょっと考えればわかるだろ」と思うでしょう。しかし、それと同じことが、大人の世界で、「フレームワークのみを覚える」という結果として、起きているのです。

スプーンというものはどういう機能があるのか。フォークにはどんな便利さがあるのか。それを頭と身体が覚えることさえできれば、この問題は解決します。というか、こんな問題はそもそも存在しません。

行為を身体で覚えているか?

フレームワークの話に戻します。

「ロジックツリー」という言葉は知っているけれど、いざ使うべき場面でそれが使えていない。そんな人がいるとしたら、その理由はひとつ。「知識」として知っているだけで、「行為」を身体が覚えていないからです。

ではその行為とは何か。前回の記事でお伝えした通り、「わける」「つなぐ」の2つです。

実はコンサルタントが提唱しているこれらのフレームワークはすべて「わける」と「つなぐ」のいずれか、あるいは組み合わせで構成されています。

わかりやすい例として、「SWOT分析」を挙げましょう。環境を内部と外部の2つに分け、ポジティブとネガティブの2つに場合分けすることで、2×2=4の分割ができます。まさに「わける」に他なりません。SWOT分析は、「ただわけているだけ」だと言えます。

一般的な「SWOT分析」の説明で使われる図。2回「わける」をしている。だけ。

次に、誰でもよくご存じの「三段論法」。

A:数学者は人間だ。
B:人間はいつか死ぬ。

AとBの事実があれば、私たちはそれを使って新たな事実を導きます。

C:数学者はいつか死ぬ。

このA、B、Cを矢印(→)を使って表現するとこのようになります。

A:数学者 → 人間
B:人間  → いつか死ぬ

↓(ゆえに)

数学者 → 人間 → いつか死ぬ

↓(すなわち)

C 数学者 → いつか死ぬ

三段論法とは、矢印(→)で「つなぐ」ことに他なりません。

このように、先人が命名してくれたフレームワークや思考法と呼ばれるものは、「わける」と「つなぐ」という行為を後付けでネーミングしたものです。

それ以外のフレームワークと呼ばれるもの、たとえば「ロジックツリー」「ピラミッドストラクチャー」「意思決定マトリクス」「演繹的推論」なども、すべて「わける」と「つなぐ」で成り立っています。詳しく知りたい方はわけるとつなぐ~これ以上シンプルにできない論理思考の講義』にてご確認いただければ幸いです。

「名前」ではなく、「行為」を知ろう。

「名前を知っていても、実際はよくわかっていないし、いざその場面で使えない」という現象は、私の勝手な妄想ではありません。数多くのビジネス研修やトップアスリートの教育研修、学生への授業の現場などで私が体験した事実です。

なぜこのような症状が存在するのか。それは「行為を教えないから」に尽きます。

例えばSDGsという言葉があります。「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。この名称をご存じの方はたくさんいるでしょう。しかし、その中身をご存じの方はどれくらいいるでしょう。そして、これがどういう活動(つまり行為)のことを指しているか、どれくらいの人が理解しているでしょうか。

「名前」を知るより、「行為」を知る。できることなら、「身体」を使って。

本連載は、次回が最終回です。次回は、「わける」と「つなぐ」は、ビジネスに限った話なのか、という話をします。結論から申し上げると、「否」です。