未来は、アマゾンの動きの断片から読み取ることができる――そんな画期的な未来予測本が誕生した。アップルやグーグルをブランド評価で上回り、文字通り世界一のテクノロジー企業となったアマゾン。同社は巨大だというばかりではない。同様の大企業では類をみない年平均25%もの成長を続けていることは驚くべき事実で、このことは常に新しい分野に進出していることを意味している。そして、アマゾンが新たに進出した分野では、ライバル企業はその脅威に対抗すべく、アマゾンのビジネスモデルを研究し、自らのビジネスに取り入れている―ーさまざまな業界がまさに「アマゾン化」しているのである。『アマゾン化する未来:ベゾノミクスが世界を埋め尽くす』(ダイヤモンド社刊)は、フォーチュン誌のトップ・ジャーナリストがアマゾン内外を徹底取材して、コロナ禍でもさらなる大きな成長を遂げたアマゾンの秘められた内実に迫り、アマゾンのライバル企業がどのように対抗しようとしているかを探りながら、未来の世界を見事に描き出している。本記事では、同書から特別にそのエッセンスを抜粋していく。(小林啓倫訳)
自動運転車が最初に実用化されるのはどんなクルマか?
コスト削減の可能性を認識したアマゾンのジェフ・ベゾスは、自動運転車の開発競争に真正面から飛び込んだ。アマゾンが所有する膨大な計算能力と機械学習の専門知識は、同社を、この分野における潜在的な有力プレーヤーにしている。
アマゾンは2016年に、特定の車線において交通がどちらの方向に流れているかを自動運転車が把握し、自らの車体を適切な車線に安全に進入できるようにするシステムの特許を取得した。また、アマゾンはトヨタと提携し、人や荷物を運ぶことができるミニバン「eパレット」を開発中で、延期となった2020年夏の東京オリンピックにおいてお披露目する計画だった。
2019年初め、アマゾンはミシガン州の企業で、バッテリー駆動のピックアップトラックとSUVを開発しているリビアンに対する、7億ドル〔約740億円〕の投資ラウンドを主導した。同じ年、フォードがさらに5億ドル〔約530億円〕の投資を同社に対して行っている。
また、アマゾンは同時期に、シリコンバレーで自動運転車を開発するスタートアップ企業オーロラに対する、5億3000万ドル〔約560億円〕の投資ラウンドを主導している。オーロラを設立したのは、この新たな産業における3人の有名人、スターリング・アンダーソン、ドリュー・バグネル、クリス・アームソンである。アンダーソンはテスラの自動運転プログラムの責任者、バグネルはウーバーの自律走行・認識チームの責任者、アームソンはグーグルの自動運転プロジェクトの責任者をそれぞれ務めていた。
オーロラは、自ら自動車を開発するのではなく、自動運転車を支えるAIを開発しており、アマゾンなどの小売業者や大手自動車メーカーと提携して、最先端の自動運転車を開発する計画だ。
自動運転車をめぐる競争に参加しているのは、アマゾンだけではない。調査会社CBインサイツによると、世界中で少なくとも46社が、自動運転技術に取り組んでいるという。その中にはGMやフォード、BMW、アウディといった主要自動車メーカーが含まれている。さらには、アルファベットやバイドゥ、マイクロソフト、シスコといったテクノロジー企業、ウーバーや中国のディディなどのインターネット配車サービス、ウォルマートやクローガー、アリババといった小売業者、そしてオーロラやユデルブのようなスタートアップ企業もいる。
ほぼ確実に言えるのは、自動運転車が最初に大量に使われるのは、配送用のバンとしてだろうということだ。それは、人間ではなく荷物を運ぶことで、自動運転車のリスクが大幅に軽減されるからである。自動運転車が事故を起こして、積み荷のボディーソープがつぶれてしまったとしても、それは不幸なことだが悲劇ではない。事故が起きた場合、バンは自分を犠牲にして、歩行者や自転車、ほかのドライバーなどに危害を加えないようにプログラムされている。つまり、歩行者やほかの車と衝突しそうであれば、木に衝突するように設定されているのだ。
もう一つ理由がある。配送用のバンの場合、それがたどるルートは事前に予測可能であることが大半であり、したがってそのルート上で複雑な箇所を学習させておくことが簡単にできる。その結果、ナビゲーションのミスや事故が発生する確率を抑制できるのだ。(つづきはこちらで)