発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター)。
不動産業界に生息する「ツーブロックゴリラ」部族
会社とは、同質的な人々が集まって協働している集団、すなわち部族です。部族には、その部族にしかわからない掟があり、それに沿った身だしなみ、すなわち「部族のユニフォーム」があります。
たとえば、僕は不動産営業ですのでこんな同業者をよく見かけます。髪型は左右を刈り上げた短めのツーブロックをオールバックに、スーツは紺のガッツリストライプ、あるいは薄めのネイビーカラー。それにジレを合わせて、靴は先がとんがって反ったポインテッドトゥ。派手な本革かばんを合わせて腕時計はもちろんこれみよがしに高級なもの……。
これは、俗に「ツーブロックゴリラ」と称される「ガンガン物件を売ってガンガン歩合を稼ぐ」タイプの不動産営業における典型的なスタイルなのですが、おそらくこの本を読んでいる人の中には、このタイプの人物に好感を抱く人はほとんどいないでしょう。
しかし、ガンガンお客さんにアタックして「自分は稼いでいる、有能なのだ」と見せつけて契約を取る営業マンにとって、これはまさしく「正しい着こなし」なのです。ちなみに、彼らも遊びに行くときは髪を下ろして刈り上げツーブロックを目立たないようにして、伊達メガネなんかかけて柔らかい印象をつくったりします。あれはまさしく部族のユニフォームなのです。
この恰好は、「ゴリゴリの不動産営業マン」としての空気を読んだものであって、他の場所では当然不適当な装いになります。こんなやつが銀行にいたり、国勢調査の訪問でやってきたりしたら「なんだあいつは?」ってなってしまいますよね。
こういった部族のユニフォームにおける正解は、残念ながら明文化されません。会社で浮かない服を着るためには、さまざまな集団における部族のユニフォームを上手にトレースし、微調整していく必要があるのです。
具体的には、あなたが普段会う人間をよく観察してみてください。正解は常にそこにあります。
すると、「さすがにあの着こなしはひどい」という人も目に入る機会が多くなり、大いに安心できるはずです。大丈夫です、世の中の人の大半は全然おしゃれなんかではありません。社会的コードに合わせてなんとなくやっているだけです。ただ、観察するときの勘所みたいなものはありますので、以下に挙げておきます。
「部族のユニフォーム」観察のポイント
最初にざっくり、次のような自分の部族の「基本の型」を知ることが大事です。
・毎日グレースーツに白シャツでOK
・毎日スーツだが、一定のスタイルが必要とされる
・毎日ビジネスカジュアル
・毎日Tシャツにスニーカー
etc.
次に、あなたの職場特有の「約束ごと」がないかを確認します。これは、上司や先輩の服を観察することで、だいたい解決します。僕が見てきた例はこんな感じでした。
・シャツは白以外にどこまでが許容されている?(薄いピンク、水色くらいまでが多い)
・スーツのストライプはアリか?(基本的には着ないほうが無難です)
・ネクタイの色、柄に暗黙の了解はないか?
・内勤でジャケットを脱ぐとき、ジレを着ることが暗黙の了解になってないか?
・スリッポンやローファーをスーツに合わせるのはアリか?(原則ダメなのだけれど、それが基本という職場もよくあります)
こういった職場の暗黙の了解を把握することがまず大切です。その上で、「上司より明らかに高すぎる服を着ない」くらいを気にしておけばそれでOKです。あなたはフィールドワーク中の文化人類学者のように、職場の社会的コードを読み取ればいいのです。気楽に、うまいこと部族に合わせていきましょう。