日置 日本でも法務の重要性は少しずつ認識されてきてはいますが、法務部内で弁護士資格を持つのは1割にも満たないのが実態です。

 日本組織内弁護士協会の2019年6月の調べによれば、日本で最も多いとされるヤフーでも34人にとどまっています*1。もっともこの数字は日本の弁護士資格を有する者に限っているので、日本や海外の子会社に在籍する、日本以外の資格の「ロイヤー」の数も考慮に入れた、グローバル規模の「法務」の資格者の数の比較が必要かもしれません。

 その観点では、後藤さんもかつて籍を置いたGEの法務部は全世界で800名以上の弁護士を抱え*2、大手法律事務所に引けをとらないリーガルチームを持っていたし、他のワールドクラス企業も3桁規模の社内弁護士を擁しています。数がすべてとは思いませんが、日本企業が見劣りしている感は否めません。

企業内弁護士にしかできないことがある

日置 必要に応じて外部の法律事務所を使えばいいという意見もありますが、後藤さんは、多数の企業内弁護士を抱える意義はどこにあると思いますか。

後藤 外部の法律事務所と企業内弁護士の最大の違いは、どの時点で関与するかということです。

 外部の弁護士は、たとえばM&A案件であれ独禁法違反であれ、「そろそろこれは外部の弁護士に依頼しよう」と社内の誰かが判断する、というプロセスを経由して初めて依頼を受け、そこから関与することになります。企業内部におけるコスト削減のプレシャーが強ければ強いほど、外部の弁護士が関与する機会は少なく、時期は遅くなります。

 それに対して企業内弁護士はビジネスと常に並走して、法的観点からアドバイスを行い、時には戦略の立案にも携わります。たとえばM&Aであれば、買収相手と基本的なスキームが決まった後にごく短い時間でデューデリジェンスを行う段階になって初めて関与するのではなく、候補を選ぶ段階から関与し、相手の素性や買収によって新たなリスクが生じないかを検討したり、リスクを低減する契約内容を提案するなどして、最良の効果が得られるように努めます。

 何か問題が起きる前に手を打つのがワールドクラスの法務の基本です。こうした機能を法務が営むためには、会社のビジネスの内容や規模に応じた数の、質の高い、企業内弁護士が必要です。

日置 早い段階から法務が関与して、リスクのコントロールにとどまらず、オポチュニティ(機会)を最大化するために、経営と一体となって取り組むということですね。

後藤 その通りです。そういう関わり方は、どんなに優秀な弁護士でも外部にいてはできません。だからワールドクラスはコストをかけてでも分厚い法務体制を築くのです。

*1 https://jila.jp/wp/wp-content/themes/jila/pdf/company.pdf
*2 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/kentoukai/kokusaika/dai5/5siryou2.pdf