ワールドクラスと日本企業の経営を比較すると、「経営の基本型」の相違点が見えてくる。たとえば、前回「ワールドクラスにおける組織設計の思想は“One”」で紹介したように、組織の構造からして異なる。今回は、2つの点から決定的な違いを説明する。(コンサルタント 日置圭介)
「一国一城」か、「ワンカンパニー」か
ワールドクラスと日本企業の組織の構造を比べると、明らかに違います。
図表「ワールドクラスにおける組織設計の思想は“One”」を見ると、日本企業は子会社を「一国一城」として扱い、親会社の下に子会社、孫会社が連なっています。
多くの日本企業では、子会社という“ハコ”に権限と責任を与えて「経営を任せて」います。それ自体は問題ないのですが、そうして個別最適を積み上げた「グループ」が、企業体として全体最適を実現できるかというと、様々なノイズが入り込むため難しいでしょう。
一方、ワールドクラスは「ワンカンパニー」という大前提が明確に打ち出された構造になっています。
実はワールドクラスもかつては日本企業同様、「一国一城」の集合体でした(さすがに『半沢直樹』に見られた「子会社=出向先」という関係性ではないでしょうが)。ところがグローバル市場で、厳しい競争や多様なリスク、効率性へのプレッシャーなどに晒される過程で、グローバルワイドでの効率的な経営のあり方を模索し、その結果、「ワンカンパニー」を前提とした組織に行き着きました。
さらに、ワールドクラスと日本企業を比較すると、ほかにも相違点があることがわかります。
たとえば、日本企業が子会社を「一国一城の主人」として扱う「エンティティ(法人)ベース」であるのに対し、ワールドクラスはグローバルで一つの会社と考えて必要な機能(ファンクション)を適所に配置する「ファンクションベース」です。ワールドクラスは法人格(リーガル・エンティティ)に大きな意味を持たせず、グローバル全体の最適を最優先して、各機能を配置する組織デザインを採用しています。
第1回に掲げた質問「ワールドクラスと日本企業の決定的な違い」の答えは、この「組織の設計思想」です。
海外企業との競争が少なく、国内中心で事業を運営していくのであれば、現状のままでもかまいません。ただし、グローバルで戦うことを選択するのであれば、法人格の構造の如何を問わず、ファンクションベース(*1)で組織をデザインし、効果・効率の両面からの「最適」をいま一度考え直すべきでしょう。欧米勢はもちろんのこと、中・印などのアジア新興国の新たなグローバル・プレーヤーも、程度の差こそあれファンクションベースを実装しているのですから。
*1 ファンクションベースについては第3回以降で取り上げます。