リバース・イノベーションには、
発展段階がある
新たな成長先を見つけ出すのに苦慮しているアメリカ企業にとって、リバース・イノベーションは売上高をほんの少し押し上げるだけのものではない。リバース・イノベーションは、貧困国に限らず、いたる所で未来の原動力になると私は確信している。
富裕国における数々の大きなビジネスチャンスは、貧困国で最初に生まれる。グローバル企業が競争していくためには、自国と同じく、海外でも機敏にイノベーションを行わなくてはならない。未来は自国から遠く離れた所にあるのだ。
GE、ディア・アンド・カンパニー、P&G、ペプシコ、ユニリーバ、ネスレなどは、すでにそのことを理解していて、競争相手よりも大きくリードしている。彼らは新興国市場でのイノベーションを自国に還流させているが、大多数の企業はいまだに、欧米の製品を適合させることでローカル・ニーズを満たすグローカリゼーション戦略をとっている。
イノベーションでより多くの成果を得たいのならば、もっと先へ駒を進めなくてはならない。
リバース・イノベーションはグローバリゼーションよりも先の段階にあるが、ほとんどの企業はいまだに以下に記す発展段階の第2から第3段階、1980年代~90年代の頃の状況にある。
第1段階:市場での存在感を示すためのグローバリゼーション
アメリカの多国籍企業は、世界中の市場に製品やサービスを販売して、かつてないほどの規模の経済を働かせた。自国でイノベーションを行い、その後、製品やサービスを各国に流通させた。1960年代~70年代に多く見られた。
第2段階:グローカリゼーション
第1段階でコストを最小化させたものの、ローカル市場で競争するには不十分だと認識した多国籍企業は、第2段階として、ローカル・ニーズを満たすためにグローバル製品を適合させて、シェアを獲得しようとした。
イノベーションは依然として自国のニーズに基づいていたが、ローカル市場で勝つために、製品やサービスに修正を加えた。貧困国の顧客の予算に応じて、既存製品から機能を省く方法がとられた。こうした動きは1980年代~90年代に多く見られた。
第3段階:ローカル・イノベーション
第2段階まででは、貧困国の経済ピラミッドの最上位の顧客ニーズを満たすことはできても、中間層や最下層にはまったく手が届かない。これらの層の攻略には、第3段階が必要となる。
リバース・イノベーションのプロセスの前半に当たる第3段階では、「ローカルで、ローカルのための」製品開発に力を入れる。既存の製品をただ修正するのではなく、「マーケット・バック」(ローカル特有の顧客ニーズを満たすために必要なソリューションを創出して、それを市場へと戻す方法)で、顧客ニーズをゼロベースで評価するところから始める。
ここでは、ローカル市場向け製品の開発に取り組むチームが、グローバル資源とのつながりを維持し、そこから恩恵を受けられるようにすることが重要となる。
第4段階: リバース・イノベーション
第3段階が「ローカルで行う、ローカルのための」イノベーションだとすれば、第4段階は「ローカルで行う、グローバルのための」イノベーションである。もともと貧困国向けだったイノベーションを、グローバルに活用するために規模を拡大していくことで、リバース・イノベーションのプロセスは完了する。
【訳注】
本稿では、リバース・イノベーションという用語が、広義と狭義の両方の意味で使われていたため、多国籍企業の段階的なアプローチについて、ゴビンダラジャンが別途作成している下図を参考にしながら、訳している。