客は次亜塩素酸水を小型ポンプで手に
業界団体も突き放す、すき家の手指“消毒”
飲食店ではチェーン店でも個人商店でも、客の入店時の手指の消毒が一般的な習慣になりつつある。ところが、効果が疑問視される手法を採っているのが、外食業界最大手で牛丼店「すき家」を運営するゼンショーホールディングス(HD)だ。

「微酸性電解水」――。すき家の店頭に置かれているのは、このように書かれた手押しポンプが付いた青色のボトルである。多くの飲食店などに置かれているアルコール消毒液を入れたボトルのように、少量を手のひらに取ってすり込む客の姿が見受けられる。このボトルはすき家全店で置かれているのだという。
微酸性電解水とは、次亜塩素酸水のうち酸性の度合いを示すpH(ペーハー、0~14の間で値が高いほどアルカリ性、低いほど酸性)が5.0~6.5と中性に近いものを指し、微酸性次亜塩素酸水とも呼ばれる。
新型コロナの国内での感染が本格化した3~4月ごろは、マスクと同様にアルコールの消毒液がドラッグストアの店頭から消え、代替品として次亜塩素酸水を使う動きが広がった。ただ、新型コロナウイルスの不活化(ウイルスの感染力や毒性を失わせること)の効果を巡ってさまざまな議論があった。
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)は経済産業省の要請で、次亜塩素酸水や界面活性剤が新型コロナウイルスを不活化させる効果の有無を調べた。6月に最終報告をまとめ、次亜塩素酸水についても、塩素濃度などが一定の条件下であれば有効との結果を発表した。
では、すき家の店頭での青いボトルによる“消毒”が有効なのかというと、そうとはいえない。NITEの吉田耕一郎広報室長は「NITEは、次亜塩素酸水が手指の消毒に対して有効なのかどうかを判断したわけではない」と説明する。
次亜塩素酸水は食品添加物として厚生労働省に使用を認められており、主に工場で食品を加工する際に殺菌目的で利用される。
クボタなど次亜塩素酸水の普及を目指す企業で作る一般社団法人日本電解水協会の石渡幸則会長(ホシザキ営業本部長)は「店頭に置いてあるアルコールと同様に、少量の次亜塩素酸水を手のひらで広げても、ウイルス不活化の効果は得られず、推奨できる使用法ではない。次亜塩素酸水で手指のウイルスを不活化させるには、多量の流水である必要がある」と話す。
石渡会長は、次亜塩素酸水などの有効性を調べたNITEの検討委員会のメンバーでもあり、「同様の使用法なら、アルコールの消毒液の方が、ウイルスの不活化効果ははるかに高い」と述べた。