日商会頭の口から飛び出した
「珍説」の信憑性とは
先日、政府の成長戦略会議の中で、日本商工会議所(以下、日商)の三村明夫会頭の口から、耳を疑うようなダイナミックな「珍説」が飛び出した。
「小規模企業の減少は都市への雇用流出に繋がり、地方の衰退を加速させている」(成長戦略会議ご参考資料 中小企業政策の考え方について 2020年11月19日 日本商工会議所)
「小規模事業者」とは、国の定義では、製造業で従業員20人以下、商業・サービス業では5人以下だが、小規模事業者の平均従業員は3.4人ということなので、家族経営で「社長1人、社員2人」のようないわゆる零細企業をイメージしていただくといいかもしれない。
近年、そのような零細企業の数と、そこで働く従業員の数が減っている。特に地方では顕著で、三村会頭が会議に提出した資料にも、2012年から16年にかけて地方の大企業の従業員は5万人増え、中規模企業は58.8万人増しているに対して、小規模事業者は109.2万人減っているという表が掲載されていた。
この零細企業の衰退が、地方衰退の背中を押している――。驚くことに、日商は資料の中でそのように「断定」している。地方の雇用の受け皿となっている零細企業が消え、いたしかたなく故郷を離れて東京などの大都市で就職する人が増え、それが結果として地方を衰退させているというわけだが、これはかなりユニークな「珍説」だと言わざるを得ない。
と聞くと、「何が珍説だ!ド正論じゃないか」と日商にエールを送りたくなる小規模事業者の皆さんも多いだろうが、これが通るのなら日本の経済政策を根本から見直さなくてはいけない。これまでの「常識」では、地方の労働力流出に関係しているのは、「賃金」という結論になっているからだ。
わかりやすいのが、内閣府の「平成27年度年次経済財政報告」の中に、「人口流出入と賃金格差」という図と共にある以下のような記述だ。
「地方ほど人手不足感の高まりが大きくなっているが、地方への労働力の移動はどうなっているだろうか。地方の経済成長にとっても、人手不足が供給面の制約とならないためには、労働力の確保がより重要な課題である。しかしながら、むしろ地方からの人口の流出が続いている。この点に関して、賃金と人口の流出率の関係をみると、賃金水準が低い地域ほど人口の流出率が高くなるという、はっきりとした関係がみられている」